『ディザインズ』五十嵐大介(著)
自然界を超越した異形の生物──HA(ヒューマナイズド・アニマル)。それは遺伝子を“設計”された、ヒトと動物とのハイブリッド。HAが備える驚異的な身体能力は、野心を抱く人々の策略によって殺戮の現場へと投入され、その真価を発揮していく。ヒトは何のためにこの異形をデザインしたのか──その背景には、人類の未来へとつながる壮大な計画が横たわっていた! 稀代の表現者・五十嵐大介が放つハードSF、ついに登場!
完結したのでまとめ読み。五十嵐大介には珍しく(初?)バトルアクション物で、結構殺伐としているが、一コマ一コマが美しく、緊張感が張り詰めており、何度もため息が出る。人間化された動物たちの躍動感が鳥肌モノ。静かな死体との対比がまた凄まじく、画力のえげつなさを感じる。
バトルだけでも眼福だが、HA、環世界、小惑星への移住、遺伝子とはなにかなど、SF要素も最高にしびれるチョイス。
主人公はHA(ヒューマナイズドアニマル)と呼ばれる生体兵器達。豹や蛙、イルカ、様々な動物の遺伝子を改造し人間化したもので、見た目の大部分は人間だが、動物の特徴はそのまま備える。知能も有って喋れるけど、あくまで動物。人間じゃないので、人権的にも倫理的にもなんら問題ないですよ、といって戦場に売られてゆく。
人間は光で世界を認識するが、犬は匂いで、イルカや蛙などは音で世界を認識する。それぞれ認識している世界が全然ちがう。これが環世界(ウムヴェルト)。基本HA視点で話が進むので、音の環世界での戦闘がひたすら格好良い。
その中でも、短編集ウムヴェルトで脱走劇を演じた蛙ちゃん、クーベルチュールが主人公。かなり強くなっており、イルカ型HA弟子達には先生と呼ばれている。(スペック的にはイルカの方が上で、訓練ではボコられ侮られるけど)
基本ストーリーはクーベルチュールと、暴走したイルカ達の師弟対決。切ない。当の蛙は見た目は可愛い人間なのに喜怒哀楽が全然わからないので、どう思っているか、何か思っているのかが知れないが、イルカ達は表情豊か。先生への鬱屈した想いがまた切ない。あの皿でクーベルチュールがチョコレートを食べてほしかった。
この戦いと平行し、これらを行う企業、マッドな経営者達、遺伝子操作の天才オクダの正体、HAの正体を探る民間人などなど、えがかれる横軸も完璧。最後までドキドキが止まらない。
その中で、オクダの素性や、思想、行動が一番恐ろしい。蛙の環世界を得るため、蛙の皮膚を移植したり、眼球を取っ払ったり、常軌を逸している。
また、HAは動物たちに人間のDNAを投入していない。全ての可能性は元から備わっており、流れを変えただけだ、という遺伝子操作の思想も恐ろしくて最高。この人の恐怖、正体がすばらしいアクセントになっており、美しいバトルと並んで見どころ。
これらえげつない行為の発端は、人類が小惑星に移住するため、植物が真空中でも爆発的に増えるように、という遺伝子改造だったが、オクダの思想は、そんな思いを飛び越え、生物を次の段階へ引き上げるもの。もう地球と人間はいらないと言ってると同義で恐ろしくなる。しかし彼らが伸び伸びと宇宙で暮らす様子は見てみたいな。となんとも名残惜しい完結。
個人的には、魔女シリーズの続編かなと感じる。そちらも読んでると、オクダの思想、世界の思想が、ほんのちょっとわかる気がする。人間など世界の枝葉末節に過ぎない。
五十嵐大介おしらせTwitterでは作者のスケッチブックも多々公開されてて素敵なのでおすすめ。ヘッダ画像もそこから借用。
また、1巻無料なので是非読んでおこう!(期間限定?)
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