マガジンのカバー画像

感想

362
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

『接触』クレア・ノース(著)雨海弘美(訳)

BLにしか見えないが、性なんて超越した人間の体を乗っ取る精神生命体のお話。ラスト、永遠にも思える時間とそれを埋め尽くす人生に目が眩んだ。 お話は、ある日殺し屋に宿主が殺され、理由がわからない主人公は、その殺し屋の体を乗っ取り調査に乗り出す。その組織の内部情報は書き換えられており…。 今回、他人の体を乗っ取れるゴーストと呼ばれる存在が主人公。気がついたら時間が飛んでる、というあるあるを、実は体が乗っ取られてたという恐怖に置き換えてくる。 主人公のゴースト、ケプラーはわりと長

『ホワイトコテージの殺人』マージェリー・アリンガム(著)猪俣美江子(訳)

マージェリー・アリンガムの初長編。100年前の本だが、ラストは普通に予想外で、十分今でも通用する。ラストの美しさは圧巻。アリンガムは法・正義の人でなく、善の人だなぁとしみじみ感じる。 キャンピオンシリーズではないが、若いキャンピオンだと、あのラストは難しいだろうね。 お話は、とある男が隣家で銃殺されるも、目撃者なし。関係者全員怪しいし、皆なにかを隠しているが…。という(今では)ベッタベタなやつ。 たまたま居合わせた青年の親が刑事なので、その縁で捜査を始めるも、一向に決定的証

『不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選』ジョン・ジョゼフ・アダムズ(編)

タイトルと表紙で艦隊モノかと勘違いしたが、銀河連邦がメイン。いろんなスペオペの世界観が堪能できる。大体ディストピア(笑) 驚くほどハズレがなかったので、原著から削られたやつが気になるなぁ。 以下特に好きなやつ。 『カルタゴ滅ぶべし』ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン 著宇宙のとあるポイントから発せられた平和的メッセージに胸を打たれた知的生命体たちが、そのポイントへと駆けつけ、発信元のカルタゴ星人を待ち続けるお話。 血統やDNAは残せても、意志をつぐのは困難よね、とため息し

『第三惑星用心棒 第3巻』野村亮馬(著)

3年強ぶりの新刊! 2023年末、作者ブログでの生存報告も止まってて心配してたので余計に嬉しい。 そして内容がバイオレンスで慄く。1・2巻、わりとほのぼのしてたのに、いきなりミサイル発射されて吃驚だよ。 2話ともボリューミーで情報量が凄い。隅から隅まで大満足。4巻が待ち遠しいけど、安すぎるので値上げしてほしいな。倍でも割安なんよね。 第5話深海8500mから戦略ミサイル打ってくるロストボーイ(迷惑兵器)に対応するお話。 ミサイルへの手慣れた対処と、エルシーが全く危機感をもた

『呪いを解く者』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

15歳の少年少女が、呪いを悪用する社会と戦うダークファンタジー。 ティル・ナ・ノーグが実際に街の隣りにあり(原野と呼ばれる森と湿地)、呪いも実在し恐れられる社会で、呪いを解くことで金を稼ぐ少年少女が主人公。 ある日ゴールと名乗る男からの依頼を受けるも、実は政府筋の依頼で、敵対勢力から狙われるはめになり…。 憎しみに囚われた人に、小さな仲間(原野の生物。蜘蛛っぽい)が、呪いの卵をプレゼントしてくれる世界観がユニーク。 そしてまた呪いがエグい。いかに対象を苦しめるかを突き詰め

『黒き荒野の果て』S・A コスビー(著)加賀山卓朗(訳)

手垢の付いたシナリオで200点を叩き出す傑作! 素直に凄い。 突飛な仕掛けなどないが、普遍的真理が凝縮されてるからこそ、文句のつけようがない。 お話は、資金難でやむにやまれず、足を洗ったはずの犯罪家業に再び手を出すはめになるも、手を組んだクズのせいで事態がどんどん悪化してゆき…というもの。 並行して、家族の事、過去に失踪した父親の事などが掘り下げられてゆく。 序盤から主人公が追い込まれていく様子も見事だが、その後の宝石店強盗からクズが本領を発揮仕出してからが本番(笑)