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2023年7月の記事一覧

『塩と運命の皇后』ニー・ヴォ(著)金子ゆき子(訳)

中華的古典ファンタジーの中編2つ。中華古典を現代語訳しました、で通用するレベルなのに、作者がアメリカ人でびっくりだよ。ベトナム系らしいが、ベトナムのファンタジーもこんな雰囲気なんだろうか? ルーツが気になる。 塩と運命の皇后支配されている国から一人嫁いできた皇后の過酷な人生が侍女視点から語られる。 皇后の死後、封印されていた住居をあらために来た聖職者(正しい歴史を収集する人々らしい)が、先客である老婆にであう。なんと彼女はかの皇后の元侍女で、彼女の口から真の歴史が語られてゆ

『七十四秒の旋律と孤独』久永実木彦(著)

短編との長編の一冊。両方無垢なAI主観でお話が進むので、児童書のような気分になるも、内容は結構ハードSFなのでギャップが面白い。さらに無垢なAIと人間の醜さのギャップに失笑してしまう。パルムの樹を思い出した。SF読みにオススメの一冊。 いろいろ細部が甘いところもあるが、これがデビュー作とは思えぬ貫禄でびっくり。次回作も今から読むのが楽しみ! 七十四秒の旋律と孤独宇宙船のワープ、人間は瞬間移動だと思っていたが、とあるアーキテクトのAIだと74秒間自由に動けることが判明。その

『残月記』小田雅久仁(著)

世にも奇妙な物語的ホラーSF。エンタメ寄りかな。恒川光太郎に吉本ばななをちょっと足して水で薄めた感じ。 月をモチーフにした3つのお話で、それぞれ全然違って面白いのだが、それぞれ若干ネタが被ってるのと、オチの無理矢理感が非常にもったいない。でも結構ポテンシャルを感じる作者なので、次回作が楽しみ。 「そして月がふりかえる」不遇な半生を送ってきた男がようやく手にした、家族というささやかな幸福。だが赤い満月のかかったある夜、男は突如として現実からはじき出される。 月が裏返った途

『恐るべき太陽』ミシェル・ビュッシ(著)平岡敦(訳)

超技巧派ミステリー。簡単なトリックなのに見事引っかかった。実にお見事! とはいえ、お話としては結構残念な感じかな。皆感情的で自己中しかでてこない。まぁフランスっぽいけど。 お話は、創作アトリエで南国の島に集まった作家と5人の女性(とその家族2人)、だがその作家が失踪、その後参加女性の一人が殺され…。 特徴はお話が一人称で語られること。だが、参加女性、娘、夫ところころ変わるので結構読みづらい。 さらにそのうち、一人称で語られる内容と事態が矛盾してきてめちゃくちゃ気持ち悪い。