『残月記』小田雅久仁(著)
世にも奇妙な物語的ホラーSF。エンタメ寄りかな。恒川光太郎に吉本ばななをちょっと足して水で薄めた感じ。
月をモチーフにした3つのお話で、それぞれ全然違って面白いのだが、それぞれ若干ネタが被ってるのと、オチの無理矢理感が非常にもったいない。でも結構ポテンシャルを感じる作者なので、次回作が楽しみ。
「そして月がふりかえる」
不遇な半生を送ってきた男がようやく手にした、家族というささやかな幸福。だが赤い満月のかかったある夜、男は突如として現実からはじき出される。
月が裏返った途端、今まで親しかった人が自分を知らないと言い出す恐怖展開が素晴らしい。そこから諦めきれずにストーキングしだすところもホラーで良かった。それだけにラストにがっかり。寂しく終わったら良かったのに。メールアドレスどないしてん、という野暮でしょーもない感想で全てが上書きされてしまった。
「月景石」
早逝した叔母の形見である、月の風景が表面に浮かぶ石。生前、叔母は言った。石を枕の下に入れて眠ると月に行ける。でも、ものすごく「悪い夢」を見る、と。
これも世界線移動モノだが1作めより断然面白い。石を枕の下に敷いて寝たときだけ月にいる夢をみるのだが、そこは空気もあり人が普通に生活しているっぽい。さらに主人公はなぜか連行されており…。とぐいぐい読ませる。
これもオチがやや強引だが許容範囲。とはいえ、合流してもどうしようもなくない? とは思うが。
「残月記」
近未来の日本、人々を震撼させている感染症・月昂に冒された若者。
カリスマ暴君の歪んだ願望に運命を翻弄されながら、抗い続けてゆく。愛する女のために。
ラストが美しい。結構感動した。自己犠牲とか一途なのとか、泣ける。こういうベタなのに弱い。
肝心のディストピアがややチープで説得力に欠けるのは次回作に期待かな。
ただ、”便器のように白い歯”という比喩は傑作。いつか使いたい。
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