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2022年10月の記事一覧

『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(著) 服部京子(訳)

『自由研究には向かない殺人』の直後から始まる地続きの続編。前作で捕まった人の裁判と、新たな依頼の行方不明人探しが並行で描かれる。 前作は明るく楽しい雰囲気だったが、今作はかなりダーク。人々のゲスさが目立つ。ピップは正義を行っているはずなのに、街と対立してゆく。 後書で知ったが、3部作だそうな。なので2作目は当然落とす。ラストは再び飛び上がると信じてるが、終わり方が結構不穏だったので、結構心配…。 とはいえ、今作も抜群のテンポで面白い。今作でピップは前作の事件簿をポッドキャ

『闇が落ちる前に、もう一度』山本弘(著)

SFとホラーの短編集。『怪奇探偵リジー&クリスタル』が良かったので手に取る。 玉石混交だが、『時分割の地獄』が珠玉なので読む価値あり。20年前にこれを書いたとは驚き。しかしAIドルというネーミングは当時でもダサいと思います(笑) 闇が落ちる前に、もう一度 宇宙が8日前にできたと証明されるお話。 世界は1週間前にできたばかりという説はよく見かけるが、元ネタは何なんだろう? 本編もそんな1本。ベタだが手紙という体裁がユニーク。なんで長々と手紙を書いているのかが理解できるラ

『爆発物処理班の遭遇したスピン』佐藤究(著)

『テスカトリポカ』が良かったので新刊を読む。 新作ではなく過去作の短編集だが、氏の手腕は存分に発揮されてて楽しめた。警察・ヤクザ・狂気が抜群にうまい。なぜこんなにリアリティを感じるのか不思議。 一番好きなのは「猿人マグラ」。ぶっちぎりで好き。次点が「九三式」。掲題作はナイスチャレンジという感じ。 また、「くぎ」も良かったが、テスカトリポカの原型かな? あっちを読んだ後なので感動は薄い。 「猿人マグラ」福岡は夢野久作の出身地であることをひた隠しにしている、という話と、子供が

『法治の獣』春暮康一(著)

素晴らしい。ごりごりのハードSFながらロマンに溢れてる。 同じ世界の中編3作。掲題作の2作目より、ファーストコンタクトもので前後編になってる1,3作目が大好き。特に1作目。ラストの展開に唖然となり、一気に引き込まれた。 理系文章でエンタメもユーモアも皆無だが、SF読みには猛烈にプッシュしたい一冊。小川一水に近いかも? 主観者地球を探索し尽くし、好奇心を持て余してる地球人達が太陽系外にも有人調査をしだす未来のお話。わりと生命がいるが、知的生命体には出会えない。そんな中、全面海

『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』竹田人造(著)

『AI法廷のハッカー弁護士』が超良かったので手に取る。 これも超楽しい。エンタメ特化ハイテクSF。冒頭でいきなりタイトルが回収されてて笑う。 お話は近未来、簀巻きにされた主人公と映画オタクが完全武装AI自動運転現金輸送車を襲うお話から、ヤクザやライバルにしてやられたり、カジノを襲ったり、話がどんどん転がってゆく。 ディープラーニングAIが社会に浸透している時代、AIや機器の死角、人の認識の隙間などをハックしてゆくのが爽快。 完全自動運転の導入には、こういうのにも対策がいる

『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング(著)

相変わらずのロマンス超特急! ロマンスのためにSFがあると言わんばかり。掲題作より「わが愛はひとつ」が甘々で大好き。 それだけに素のSF作品である「赤い小さな学校」「約束の惑星」が際立って格好良い。 全体的に外れなし。やはりヤングは良いなと再確認したよ。 わが愛はひとつ 新婚夫婦の男に懲役100年の刑に処されるお話。刑期を終えた男が廃墟とかした自分の村に帰るとそこには…。 構成がお見事。二人のなりそめの過去パートと、刑期を終えた現在パートが交互に語られ、男の絶望が浮き立

『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー(著)鈴木恵(訳)

素晴らしい読み応えの悲劇。ミステリィ成分は薄め。登場人物たちが見事に坂を転げ落ちる様が悪夢のよう。読んでいて辛いがページをめくる手が止まらない。ダンサー・イン・ザ・ダークみたいなラストを覚悟していただけに、ラストはやや拍子抜けだが、善とは、正義とは何かを読後も延々考えさせられる。 ちなみに、「翻訳ミステリ史上、最高のラスト1行。」というキャッチコピーはゴミなので無視しよう。全編素晴らしい。 海辺のど田舎(最近は別荘地になりつつある)で、過去の事故を引きずりなんとか生きてる母