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2022年1月の記事一覧

『〆切本』

ハガキ、エッセイ、論文、漫画等、〆切に言及されているものをピックアップしているおもしろ本。 目次に偉人が並んでる時点で、この人たちの言い訳が聞けるのか、とニヤニヤが止まらない。 また、構成も卑怯で、1章でさんざん書けない書けないとやっておきながら、第2章は編集者サイドとなり、原稿が来ないストレスが描かれ笑える。そしてただ笑えるだけでなく、出版業界の歪さも明らかにされてゆく良書。 ちょっと期待はずれだったのは、言い訳ばかりでもない所。 〆切をキーワードに抜き出してるだけなので

『バロルの晩餐会 ハロウィンと五つの謎々』天野喜孝(絵)夢枕獏(作)

絵本なのだが、絵が天野喜孝で、さらにお話は夢枕獏というえぐいタッグ。お話は子供向けなのだが、絵と一部なぞなぞは子供向けじゃないような。 天野喜孝の絵は、鉛筆のラフ画ばかりなので、画集のような完成度はないのだけど、鉛筆の黒がホラーで良い上に、ラフでこれか…という恐ろしさが気持ち良い。ハロウィンの夜のお話に実にあってる。 あと、ボリュームが凄い。こんなに何十枚もあると思ってなかったので嬉しい限り。 夢枕獏のお話は割とオーソドックス。青い金剛石を探す旅なのだが、RPGよろしくた

『kaze no tanbun 夕暮れの草の冠』

短編アンソロジー。「夕暮れの草の冠」がテーマらしいが、有って無いようなもの。かなり自由に書かれてる。短文は作家の個性が丸出しになるので好きだわ。 好きなのは藤野可織『セントラルパークの思い出』と柿村将彦『高なんとか君』。どっちも日常が滑るように非日常になってゆくホラー展開が大好物。それでいて笑える作風が楽しい。特にセントラルパーク。公園とケーブルTVの話だったのに。 両方とも全然近寄りたくない世界だけど、読む分には楽しい。不思議だ。 あと、柿村将彦はそろそろ2冊めを出して欲

『カラハリが呼んでいる』マーク・オーエンズ,ディーリア・オーエンズ(著)小野さやか,伊藤紀子(訳)伊藤政顕(監修)

『ザリガニの鳴くところ』が良かったので新作小説も読んでみよう、と手に取るが新作でも小説でもなく、若い頃、動物学者時代のボツワナ滞在フィールドワークドキュメンタリーエッセイであった。やられたと思いつつ読むと、驚くほど面白い。若い二人の無謀っぷり、砂漠の過酷さ、ライオンやハイエナなどと寝食をともにする距離感に驚きっぱなし。 極力人間の手の入ってない自然を調査するため、鉱山で働いて金をため、家財道具や車も売っぱらってアフリカへ調査へ向かう若い夫婦の行動力が恐ろしい。とりあえず行こ

ファンタジーなのに陰謀とピンチとミステリ満載『ガラスの顔』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

今作も素晴らしい大冒険! 結構分厚い本なのだが、95%が起承転結の”転”の連続。 世界の、主人公の、刺客の、盗賊の謎が波濤のように押し寄せ、どうなるのよとハラハラしっぱなし。そして地下世界カヴェルナが思いのほか邪悪で血生臭く余計ドキドキさせる。 それら全て、ラストで見事に畳まれる。その手腕に脱帽。エピローグも美しすぎる。 今回も世界と戦う少女が主人公。 今までと違い架空の地下都市が舞台で、そこでは毒を吐くチーズ、記憶を操作するワイン、感覚を増幅するスパイスなど、魔法の品々が