『〆切本』
ハガキ、エッセイ、論文、漫画等、〆切に言及されているものをピックアップしているおもしろ本。
目次に偉人が並んでる時点で、この人たちの言い訳が聞けるのか、とニヤニヤが止まらない。
また、構成も卑怯で、1章でさんざん書けない書けないとやっておきながら、第2章は編集者サイドとなり、原稿が来ないストレスが描かれ笑える。そしてただ笑えるだけでなく、出版業界の歪さも明らかにされてゆく良書。
ちょっと期待はずれだったのは、言い訳ばかりでもない所。
〆切をキーワードに抜き出してるだけなので、見苦しい言い訳が見れないとがっかりする(笑) とはいえ半分以上言い訳で楽しい。自分がいかに遅筆かとか、書けない理由を開き直って原稿にしている様が面白い。缶詰にされる様子も喜々として描かれてる。文壇の定番自虐ネタという感じ。
そして編集者サイドの第2章も良い。締切日、二人しか原稿を出していないとか、催促しても催促しても書いてもらえない極度の苦痛といった胃に悪い文章がつづく。しかし面白いもので、〆切を守る作家のことを安っぽいとも考えていたり、〆切前に届いた作品が面白いはずがないとか思っていたりもする。〆切は破られる前提だし、編集者と作家の化かしあいも前提である。
馬鹿な子ほど可愛いという心理と背水の陣が混ざった歪な業界だなと感じる。
ド正論の人、森博嗣のエッセイも含まれており、この歪さにわりと本気でキレている様子がまた笑える。原稿料は〆切前に出したら増量、超えたら減額という提案が面白い。これなら期限を守らせつつ、作家を追い詰められるな、と膝を打ったが、編集者からは却下されていた。
ちなみに、〆切のことをちゃんと契約だと考えているのは本書で森博嗣ただ一人であった。
そしてなにより凄いのが大トリ、柴田錬三郎の「二十年に一度の非常手段」の原稿であろう。爆笑した。推理小説に作者からの挑戦、というのはあるが、まさかの敗北宣言である。よく殺されなかったな。挿絵がどうなったのか気になるので調べたら発見。予想通りで爆笑した。
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