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2021年6月の記事一覧

『ジャマイカの烈風』リチャード・ヒューズ(著)小野寺健(訳)

ジャマイカの農園から故国イギリスへと船出した子供たちを待ち受けていたのは、海賊船の襲来だった。その日から海の男たちと子供たちの奇妙な船上生活が始まる。突発した殺人事件をめぐって、無邪気な幼い心がもたらした恐るべき結末とは―。人間についての真実を天啓のように示した、『蠅の王』にも通ずる伝説的古典。 これほど「子供」の真髄を描いた本を他に知らない。可愛く、わがままで、無垢で、邪悪。自分の宇宙をもってて、理解不能。そんな別の生き物だと痛感させられつつ、そのくせラストでは大人顔負け

『草祭』恒川光太郎(著)

団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く―。消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。 美奥という地方をテーマにしたホラー短編集。それぞれ微妙にリンクしていて大好物。愛ちゃんの本編は別の本なんですか? けものはら用水路沿いからしか入れない、崖に囲まれた不思議な野原のお話。

『たそがれにまにあえば 赤井さしみ作品集』赤井さしみ(著)

ネコミミメイドとふしぎなへびが、未知の世界へご招待。 あなたもどこかで見た事あるかも? かわいいネコミミ女の子に、よく喋るへびと、奇妙なうねうね。 ゆるやかな想像でつながっていく、脱力系ショートショートコミック! 個人誌を中心に活動する作家・赤井さしみが書き連ねてきた掌編が、待望の単行本化です。 可愛さとナンセンスに極振りしたショートショートギャグマンガ。twitterで見かけた人も多いのでは。本書はそれらがまとめられ、さらに描き下ろしが加わっており、ファン必携の一冊。紙版

インドの貧困が読んでてつらい『ブート・バザールの少年探偵』ディーパ・アーナパーラ(著)坂本あおい(訳)

インドのスラムに住む、刑事ドラマ好きの九歳の少年ジャイ。ある日クラスメイトが行方不明になるが、学校の先生は深刻にとらえず警察は賄賂無しには捜査に乗り出さない。そこでジャイは友だちと共に探偵団を結成しバザールや地下鉄の駅を捜索することに。けれど、その後も続く失踪事件の裏で想像を遥かに超える現実が待っていることを、彼はまだ知らなかった。少年探偵の無垢な眼差しに映る、インド社会の闇を描いた傑作 少年探偵とあるので、てっきりミステリーだと思っていたのに、ホラーじゃねえか! ラストに

『最終人類』ザック・ジョーダン(著)中原尚哉(訳)

ありとあらゆる種族がひしめく広大なネットワーク宇宙。その片隅の軌道ステーションで、ウィドウ類の元殺し屋の母親と暮らすサーヤには秘密があった。宇宙種族にもっとも憎まれ、絶滅させられた「人類」の生き残りだったのだ。この秘密のため、彼女はネットワークに必須のインプラント手術を受けられず、まともに仕事も探せない。だが、そのサーヤの正体を知る集合精神オブザーバー類が突然、現れた! 新世代冒険SF。 最高。スペオペの皮をかぶったハードSF。上巻は個人のドラマだが、どんどん世界が広がって

『裏世界ピクニック 第6巻 Tは寺生まれのT』宮澤伊織(著)

私の名前は紙越空魚。埼玉に住むごく普通の大学生。だけどある日知らない金髪美人が現れて、今の自分は記憶喪失だと告げられる。戸惑う暇もなくヤクザの運転する車で謎の施設へ連れ去られて……私、いったいどうなっちゃうの!?──この現実と隣合わせの裏世界、それに関する記憶すべてを封じるネットロア〈寺生まれのTさん〉が空魚たちの敵として襲来する! 女子ふたり怪異探検サバイバル、シリーズ初の長篇となる第6巻!! 主人公がいきなり記憶喪失になっており吃驚。潤巳るながやらかしたのかと思ったが別

『第八の探偵』アレックス・パヴェージ(著)鈴木恵(訳)

独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された住人の死体──7つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ イマイチ。ミステリーの構成要素、パターンを論じているが、ミステリーへの愛は感じない。頭

『虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT- 第1巻』ippatu(著)

はるか未来──。 高放射線量下で異形の生物たちが跋扈する、永きにわたり人の住まぬ“魔境”となった地、「旧日本」。無実の罪で妻と子から引き離され死刑囚となったレオーネは、「成功か死か」の極秘任務を命じられる。そこでレオーネは少女や巨獣など数々の異形に出会う……。 twitterで1コマみただけで一目惚れ。読んだ結果、やはりドストライクであった。廃墟は良いし、つぐみは可愛いし、おっさんたちも激渋。特に頭の形が好き。 ただ、今の所主人公はつぐみ(表紙の鳥足女の子)ではなく、死刑

『ストーンサークルの殺人』M・W・クレイヴン(著)東野さやか(訳)

英国カンブリア州に点在するストーンサークルで次々と焼死体が発見された。犯人は死体を損壊しており、三番目の被害者にはなぜか停職中の国家犯罪対策庁の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻みつけられていた。身に覚えのないポーは処分を解かれ、捜査に加わることに。しかし新たに発見された死体はさらなる謎を生み、事件は思いがけない展開へ…英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガー受賞作。 ミステリー、サスペンス、両方イマイチだが、ドラマは最後まで面白いし、何よりティリーのキ

『秋の牢獄』恒川光太郎(著)

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。 恒川光太郎のハズレのなさ、安定っぷりには驚かされる。今までの作品と似通っているので、新鮮な驚きというのは少ないのだ