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『ジャマイカの烈風』リチャード・ヒューズ(著)小野寺健(訳)

ジャマイカの農園から故国イギリスへと船出した子供たちを待ち受けていたのは、海賊船の襲来だった。その日から海の男たちと子供たちの奇妙な船上生活が始まる。突発した殺人事件をめぐって、無邪気な幼い心がもたらした恐るべき結末とは―。人間についての真実を天啓のように示した、『蠅の王』にも通ずる伝説的古典。

これほど「子供」の真髄を描いた本を他に知らない。可愛く、わがままで、無垢で、邪悪。自分の宇宙をもってて、理解不能。そんな別の生き物だと痛感させられつつ、そのくせラストでは大人顔負けのえげつなさを見せる。圧巻でした。

冒頭のイギリス人による植民地運営描写から、イギリス人は絶対生活スタイルを変えなくて気合入ってるなと笑ってしまいつつ、わりとほのぼのと始まる。島での野生あふれる生活編も十分面白いのだが、ハリケーンで家が吹き飛び、子どもたちはイギリスに帰国させる事となるが、道中海賊に襲われ、海賊船で暮らすはめになり、そこがまた面白い。

この海賊、かなり牧歌的で、紅の豚を思い出すレベル。海賊、子供ともに(海賊は陰気だが)海賊船でめちゃくちゃ仲良く暮らしてゆく。子どもたちの自由奔放さと、事故や死などリアルな事件のギャップに驚かされる。

最終的に、根負けした海賊が子どもたちを別の船に預け、終盤を迎えるのだが、ここからが本編。いままでの牧歌的雰囲気が180度変わり、何を読んでいるのかわからない恐怖と出会ってしまう。

子どもたちの行動は破茶滅茶で支離滅裂。なんでそんなことを! の連続なので、子供には全然感情移入できず、海賊立場で読んでいただけに、ラストの仕打ちはあんまりだよと思わずにおれない。

しかしよく考えると、子供の行動はすべてその場に適応してるだけだった。生物として最善の行動をとっている。なんて恐ろしい事実だろう…。

子供向けにカテゴライズされているが、子供が読んでも意味わからないのでは? という気持ち。断然大人が読むべき。

ちなみに、子どもたちが最初に乗る船にうみがめが大量に積まれているのは、当時イギリスでうみがめのスープが大流行してたから。その他も描写にかなりリアリティがあるので、イギリス史好きに激しくおすすめ。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説

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