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固定残業代月80時間の是非を人事企画担当として解説してみた

2023年9月16日、X(Twitter)での次のポストをきっかけに、企業の固定残業代についての議論が飛び交いました。

この原田さん自身のポスト、元々はレバレジーズ社のプレスリリースを取り上げた記事でした。しかしこの記事の論点は思わぬ方向に進み、この中にある固定残業代の月80時間の記載を巡り、様々な視点から様々な意見が飛び交いました。

意見の一部を取り上げると「長時間勤務体質は問題」「若いうちはハードワークをすべき」「新卒初任給が500万円以上はすごい」「レバの競合他社との初任給比較」etc。労働基準法に関連する事案につき社労士の方が詳しい解説を載せたりなど、大変勉強になる内容もありました。それにしてもこんなにも複数の解釈が生まれ、それぞれの論点での主張が飛び交うポストも珍しいですね。

さて、このポストが盛り上がっているのを見かけた時、人事担当の立場としては固定残業代80時間という制度がアリかナシかをまず考えたわけです。その結果の感想としては、「固定残業代月80時間はそぐわないのは明らかだが、なかなかこの数字を修正するのは困難だろうなあ」というのがすぐに思いついた感想でした。

そこで今回のnoteでは、固定残業代月80時間がなぜ存在していて、それを修正するのがなぜ難しいのかを解説していきます。


固定残業代とは

まず、固定残業代の説明を引用します。

固定残業代とは、実際の残業時間に関わらず、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働に対して毎月定額の残業代を支払う制度です。

例えば固定残業代を20時間と設定していた場合、あらかじめ20時間分の時間外手当が支払われているため、20時間までは時間外手当が出ません。ただし20時間を超えた分については追加で時間外手当を支払う必要があります。30時間働いたら10時間分は時間外手当を追加で支払わなくてはならないのです。

https://hcm-jinjer.com/blog/kintai/fixedovertime-40hours/

つまり20時間の固定残業代とは、時間外勤務時間が0〜20時間の場合は一定の金額となり、20時間を超えると別途手当を支給しますよ、という制度です。時間外勤務が20時間未満の人にも20時間分の時間外手当を支給します。20時間は必ず残業をするように強制されている制度とは異なり、20時間残業するようなメッセージ性も特にありません

固定残業代を導入する企業の割合

企業側の視点に立つと、不必要な残業代まで支給することになるため、固定残業代はデメリットしかないように見えるかもしれませんが、この制度を導入している会社は増えているのが実態です。
労政時報によると2022年時点で全産業のうちの23.3%が固定残業制を導入しているというデータがありました。約10年で倍以上に増えています。この背景をとある社労士の見解では、今まで有耶無耶にしてきた残業時間について厳格管理をすることが徹底されているのが昨今の状況であり、その結果残業費を払うしくみが必要になったということのようです。

企業が固定残業制を導入するメリット

固定残業制の経営側にとってのメリットは、人件費の固定費化です。残業代という変動費要素が少なくなることで管理がしやすくなります。
また月例給与額を増額したり多く見せることができて採用時も有利に働きます。

従業員側にとってのメリットは、一定時間までは残業してもしなくても同じ報酬額となることです。残業代目当てに必要以上に時間をかけて働くことがなくなるのは経営側にとってもメリットがありますね。

その他のメリットについては、次のサイトが参考になりました。


固定残業代:80時間って法律違反にならないのか?

1ヶ月あたりの時間外労働が80時間という数字を見ると、長時間労働が常態化しているブラックな会社を連想する方も多いと思います。固定残業代月80時間と定めることは違法にはならないのでしょうか?

まず、固定残業代の上限に定めはありませんので、何時間に設定しても構いません。だからといって、多すぎる時間を設定すると長時間労働が常態化している会社と見られる可能性があります。そのため設定する時間はできるだけ実態に即した時間で設定する必要があります。一般的には月20-30時間、多くても45時間で設定するケースが多いです。多くの会社は全従業員の平均残業時間を参考にして、固定残業代以上の手当をなるべく払わなくて済むような設定するケースを設定しているのではと推測しています。

ところでこの平均残業時間は、以前からの時間それも10年以上前のものを使用するケースが多そうです。10年以上前というと長時間労働が当たり前の時代、僕もハードワーカーでした。月80時間が平均という会社は当時から良くないと言われていましたが、実際にはあったと思われます。固定残業代が80時間というのはその頃に設定したものの名残なのなな?と推察しています。

月80時間の時間外労働が常態化している時代は終わった

2019年に労働基準法が改正となり、初めて36協定にかかる時間外労働の上限「1か月45時間、1年360時間」を超過した際の罰則が規定されました。この法改正に至るまで数々の働き方改革が行われた結果、多くの企業で時間外労働の削減が図られました。労働基準法違反は結構重たい対応が必要であり多くの会社は厳格な対応を行っています。そのような適切な対応が執られている会社であれば固定残業代が80時間となっていても、実態の時間外労働が80時間が続くことはまずありえないというのが昨今の傾向です。

ちなみにこの件を巡る法的な見解はまだハッキリしない部分もありますが判例においても、月80時間を超える固定残業代が認められないケースも出ています(判例はこちら)。

固定残業代:月80時間を減らす制度変更は結構複雑となる

実態と乖離している固定残業代:月80時間。だったら変えればよいじゃん、と思いがちですが、実際のところなかなか難しい問題が孕んでいます。

まず変更する場合の単純な方法として、月80時間の時間外勤務手当を変更するという方法です。例えば80時間→45時間に変更した場合の方法を考えてみると、固定残業代金額×45/80となります。しかしこれをやると、従業員の給与が一律減額となります。これでは社員の不満は爆発するはずです。

対応方法として、固定残業代は45時間に変更したうえで、月額給与の支給額は維持する方法です。具体的にいうと、時間外手当は減額となった分、基本給部分を増額しトータル金額は同額とするケースです。この場合は次のような影響があり、人件費増となります。

  • 45時間超で割増賃金の支払が発生する

  • 基本給の増額に伴い時間単価が上がる
    (賞与や退職金にも影響が出る場合がある)

そして、もしこれらの改定を行う場合には給与制度の変更に該当しますので、人件費増となる施策について取締役会や経営会議で説明し、制度変更の決裁を得る必要があります。しかし人件費を増やすメリットの説明はなかなか複雑であり経営側としても判断が難しい事案となります。

他の方法としては、単純に固定残業代を45時間相当に減額するという方法はあります。しかしこれは給与総額を減額するだけの対応です。これでは納得感も薄いですよね。

このように考えると、固定残業代の月80時間を変更することは、必ずしも容易ではないのです。

スペースでこんな話をしました

以上のとおりですが、この件については9月18日にXのスペースで対談させていただき、延べ171名の方に聴講いただきました。もしよろしければこの時のスペースをぜひ聴いて頂けたら嬉しいです。https://twitter.com/nobby_nyyr/status/1703886065713680510

最後まで読んでいただきありがとうございました😊

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