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「悩みを話した時に強くなった」 世界的アスリートに学ぶ、生理と今を生きる方法

#NoBagForMe PROJECT

他人の痛みはわからない。それは生理についても同じ。どうすれば他人の生理を理解し、自分の生理にも思いやりを持てるのか。生理について発信を続けるふたりのアスリートに伺いました。

▼目次
もう抱え込まない。生理は話す時代へ
生理はもはや個人の問題じゃない
男女関係なく他人のつらさに寄り添える社会のために、ひとりひとりができることーー
トップ選手ほど、恥じらわずに片っ端から悩み相談!
今、注目を浴びる「休養学」
自分のご機嫌とりで、”私”をきちんと労ろう

〈profile〉
伊藤華英さん

1985年生まれ。元水泳選手。スポーツ健康科学博士。2008年日本選手権女子100m背泳ぎで日本記録を樹立。数々の国際大会で輝かしい戦績を上げた。現在は一般社団法人『スポーツを止めるな』の1252プロジェクトリーダーに就任。「スポーツ×生理」について情報発信を続ける。

鈴木明子さん
1985年生まれ。元フィギュアスケート選手。現プロフィギュアスケーター、振付師。冬季五輪2大会連続入賞のほか、世界選手権にて最年長メダル、全日本選手権で最年長優勝などの記録を獲得。摂食障害、続発性無月経などの経験から、マインドの持ち方や生理などの体の変化との付き合い方に関する講演も行う。

(聞き手・編集:浪花真理子 写真:玉村敬太)


もう抱え込まない。生理は「話す」時代へ

ーー生理の話題ってなかなかしにくいものですよね。そもそも、話す必要ってありますか?

鈴木:実は私も選手時代の前半は、生理について積極的に話しませんでした。

伊藤:話さなかったというより、そもそも生理を話すべき重要なこととして、捉えていなかったですね。「女性は生理があるのが当たり前。わざわざ言うことでもない」と。

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鈴木:特に、「生理不順になってて」みたいなトラブルや困りごとに関しては話さなかったよね。

伊藤:2008年の世界大会のとき、生理期間がレースとかぶってしまい、うまく対処できませんでした。それは、生理について日頃から相談できる人がいなかったことも原因のひとつだったなと思います。

鈴木:なんだかタブー視されてる風潮もあるよね。

伊藤:私たちは個人競技だったけれど、「人に迷惑をかけられない」という思いがつのりがちなチーム競技だと、余計に生理の悩みを自分の中だけに秘めてしまいそう。

鈴木:でも生理があることは人として自然な機能。だから誰に遠慮することもなく、もっと普通に話せていればよかったなと思います。

伊藤:「1252プロジェクト」の活動で中学校や高校で授業をすると、「生理ってこんなに明るくオープンに話していいんだ」と驚きの声が上がるんです。

生理はもはや個人の問題じゃない

鈴木:生理の悩みを誰かと共有することって実はメリットが多いよね。アイスショーの楽屋で「なんで生理前ってあんなに食べたくなるんだろうね」という話で盛り上がったことがあります。私だけじゃない、みんなもそうなんだって安心できました。

伊藤:それに周りに話すことで、男女関係なく知識をアップデートするいい機会にもなります。特に日本では、生理に関する情報が日常的に目や耳に入ってくる、という状況ではない。だからこそ生理について、ひとりひとりが話すのは本当に意義があることだと思います。

鈴木:そう言えば、中学生くらいの時に課外授業で習って以来、(自分で調べる以外は)知識を更新するチャンスって意外とない…。でもその時から、生理の状態も、発生するトラブルも変わってるわけだから、アップデートすべきだよね。

伊藤:話すと、自分も周りの人も知識を更新できるだけでなく、自然と生理への意識も高まります。そうすると女性が、自分自身の体を大事にしようと思えるようになる気が。「生理は自然に来るものだから……」と軽く見てしまうこともなくなります

鈴木:私はコーチが男性だったけれど、生理期間については共有していました。生理前から2日目まではどうしても調子が落ちてしまうので。

伊藤:「今は動きが悪いけれどそれは生理のせいで、しばらくすればまた動けるようになる」ということをコーチの方も理解できるからいいね。

鈴木:優しくしてほしくて伝えてるわけじゃなくて、トレーニングのスケジュールを効率よく組んでもらうためでした。無理すると怪我につながるかもしれませんし。

伊藤:周りに生理の状況を伝えることは、結局、自分だけじゃなくてみんなにとってのベストなパフォーマンスにつながるのかもしれないね。そしてそれは、私たちアスリートに限ったことではないと思います。職場でも家庭でも、ある程度同じことが言えるかもしれません。

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男女関係なく他人のつらさに寄り添える社会のために、ひとりひとりができること

ーーとはいえ、生理トラブルのつらさって言い出しにくいし、伝わりづらいですよね。

鈴木:本当に理解し合いにくいものですよね。同じ女性であっても、たとえ母と娘であっても、症状の有無や程度に個人差がある。

伊藤:だから他人の生理のつらさはなかなかイメージできないんだよね。しかもそのつらさって表現しにくい。

鈴木:たとえば「お腹が痛い」というのも、トイレに行きたい腹痛ともまた違って、キューッてなる。でもそんな独特の痛みは、どう表現しても伝わりづらいうえ、程度も頻度も毎月違う…。

伊藤:それに生理などに関するトラブルが起こっている時は、本人だって休みたくて休んでいるわけじゃない、というのもわかってほしい!

鈴木:だからこそ、生理の話をオープンにすることで、「トラブルにはいろんな症状がある」という知識がみんなに広がるといいね。そして、悩む女性に対してもっと寛容な社会になるといいです。

伊藤:私たち女性も、他の女性の痛みを理解しようとする姿勢が大事だよね。そしてそれは、男性にとっても他人事ではない

鈴木:先日、お仕事をご一緒した30代手前の男性が、生理に関する私の記事を見てわざわざ感想をくれたんです。「恥ずかしいけれど、生理について全然知らなかった。そして知らないのは恥ずかしいことだって今まで気付いていなかった」と。

伊藤:それはうれしいね!

鈴木:彼が生理について知るきっかけを作ることができた。そしてそれが彼の将来のパートナーを救うことにつながっているかもしれない!って思えました。個々人がコツコツと発信することで、生理への意識が広がるきっかけ作りになればうれしいです。

伊藤:はじめから全部を理解してもらうのは難しいかもしれません。だからこそ、シェアし続けることが大事なのかもしれないね。ちなみに海外の選手から聞いた話では、パートナーに生理の話は普通にすると聞いたことがあります。

鈴木:生理トラブルで女性が休んだり、働き方をセーブする、ということに、欧米の男性は理解があるイメージ。

伊藤:男女のからだの仕組みが違う、という知識が浸透している気がします。なので、”男女平等”が叫ばれているけれど、欧米ではそれは”ただ平均的にならす”ということではなく、”違いを理解したうえで補い合う”という意識が強いように思います。

鈴木:それこそが本当の意味で実践的な平等に繋がりそうだね。比べて日本では、女性の体にまつわる悩みをオープンに話すことにまだまだ勇気が要る。けれどその重要性を選手時代の後半に痛感しました。


トップ選手ほど、恥じらわずに片っ端から悩み相談!

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ーー鈴木さんは、フィギュアスケート選手として異例の最年長記録をいくつも持っていらっしゃいます。人より長く第一線にいた分、女性ならではの体の変化とも戦ったのでは?

鈴木:同じトレーニングをしても筋力を保てなくなったり、疲れが取れなかったり。ガクンと衰えるのを何度も感じました。

伊藤:ハイレベルな戦いを長く続けるのは本当に大変なことだと思う!

鈴木:続けられたのは、フィギュアスケートが好き、という気持ちがあったから。そして何より、周りの人が体だけでなく心のケアまでしてくれたからです。体の変化やそれに対する悩みについて素直に周りに相談することで、助けてもらうことができたんです。

伊藤:私も、プライドを捨てて「自分のダメなところはダメ」と割り切って周りに相談できた時が一番気持ちよく練習できていたと思う!

鈴木:実際、国際大会などで集まるトップの選手たちはみんな「自分だけでなんとかしよう」なんて思っていないよね。周りの人に片っ端から悩みを打ち明け続けることで、知恵や情報を分けあっていました

伊藤:そういうところ、貪欲だよね。高みを目指す人ほど、問題を共有して、打開のためのチャンスを自分で作り出していた気がします。

鈴木:その意識は引退してからも役立っています。だからスポーツ選手に限らず、一般の人もぜひ生理の悩みを誰かと共有してみて欲しいです。そして、「生理前だから行かない」と普通に言える世の中に徐々になっていくといいなと思います。

伊藤:そしてそれに対して「そっか」と何も考えずに自然に返してもらえるようになるといいよね。


今、注目を浴びる「休養学」

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鈴木:そういう面ではコロナ禍の新しい生活習慣にも、いいところはあるなと感じます。

伊藤:体温を測るのが習慣化されたよね。そのおかげか、自分の体調の変化を敏感に観察するようになったと思います。

鈴木:そのことが、ひいては自分を大切にする意識に繋がるんじゃないかな。そして、体調が少しでも悪かったら家族や職場に伝えて「休みます」と言えるようになりました。おかげで休むことへのハードルが、少し低くなったのではないかと思うんです。

伊藤:リモートワークが普及したことも、生理がつらい女性にとってメリットがあるんじゃないかな。お昼休みに横になれたり、誰に気を遣うことなくトイレに駆け込めたり。

鈴木:生理トラブルが発生している時に職場で周りからの目線が気になったり、休むことに後ろめたさを感じてしまったり。そういうストレスも、生理に悪影響を及ぼしてしまうもんね。

伊藤:でも、後ろめたさなんて持つ必要、本当はないよね。人間は休まないと生きていけない。最近は「休養学」という学問が見直されているんですよ。

鈴木:運動や栄養の大切さはよく知られているけれど、休養学、というのは初耳!

伊藤:休むことへの理解を深めて、効果的な休養の取り方などを学ぶ学問だそうです。特に日本では、頑張るのが普通で、休むことには消極的になってしまいがち。だから、休養学みたいな価値観は役に立ちそうだよね。

鈴木:そういった価値観が広がって、生理関連だけじゃなく、ウェルネスのための休みが男女関係なくみんな取れる社会になるといいな。しかも、みんなが休まなくちゃいけないのではなく、休みたい人が普通に休める、みたいな。


自分のご機嫌とりで、”私”をきちんと労ろう

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ーーおふたりは特に生理に関しては、どういった休養をとられていますか?

伊藤: 私の場合は生理前に疲れやすくなるタイプ。なのでその期間は特に睡眠時間をなるべく確保するようにしています。

鈴木:私は生理前や生理2日目までが体力的にも精神的にもつらくなります。だからその期間は、頑張るハードルを下げているんです。やるべきことはやるんだけれど、それ以外は手を抜きます。

伊藤:つらい時は無理しない。そうすると体にも心にも余裕が生まれそうだね。

鈴木:お仕事をやり終えたら、「生理期間なのによくがんばった」と自分を認めてあげるようにして、気持ちを楽にしています。それで帰宅してからご飯を作りたくないなら、もう作らない!

伊藤:「やらなきゃ。でも…」と思うのではなく、休む時は休む、とキッパリ決めるのは効率的でもあるよね。

鈴木:なので生理前から生理2日目までは自分を甘やかす期間と割り切ります。それが過ぎたらがんばる、というふうにメリハリを付ければ問題ないかなって。

伊藤:主体的で素晴らしいと思う!

鈴木:あと、好きなものを食べて自分のご機嫌をとります。生理1〜2日目は体が重くて眠気も強くなる。だから特に朝ご飯に好きなものを用意しておきます。普段よりもちょっといいパンを買ったりして。

伊藤:生理でつらい時、自分のご機嫌とりは欠かせないよね。私は生理前にマッサージに行ったり、よもぎ蒸しに行っています。

鈴木:よもぎ蒸し、いいね。体を温めると生理痛が和らぐような気がして、私も日頃から温活をしています。

伊藤:私たちふたりとも、水の中や氷の上で闘う”冷える系スポーツ”だもんね。余計に温めなきゃって思うよね。

鈴木:特に冬は毎日腹巻をしています。お風呂にゆっくり浸かるのも大事。

伊藤:私は寝る前に玄米カイロをお腹や腰に当てています。なるべく温かい飲み物を飲んだり。特に生理中は温めると「今、私、自分の体をちゃんと労わることができてる」と思えて、気分まであったかくなるんです。

鈴木:生理中の冷えと言えば、天然コットン素材のナプキンが、着けた時にふわふわ感があって好き!

伊藤:肌あたりが優しくて、ムレやかゆみも軽減してくれそう。私も天然コットンのものを使っているんですが、最近は種類も増えて、ドラッグストアなどで簡単に手に入るようになったのもうれしいよね。

鈴木:と言いつつ、ナプキンも毎回絶対にコットン100%じゃなくちゃいけないわけでもないし、毎日、お風呂に入らなくちゃいけない、と決める必要はない。やりたければいい、みたいな大らかな気持ちでいたいですね。

伊藤:自分のご機嫌をとる方法も、他の人と同じじゃなくていいよね。私の場合はよもぎ蒸しやマッサージだけれど、人によっては花を買うことかもしれないし、音楽を聞くことかもしれない。自分の気持ちが優しくなれたり、些細なことにイライラしても、「ま、いっか」と思えたりすることを見つけてほしいです。

鈴木:いつもご機嫌でいる必要はない。身体的に、または精神的につらくなってしまう時があるのは仕方ない。でも、自分の機嫌がよくなれる方法を知っていれば、より心地よく生きられる気がするよね。周りに素直にSOSを発しつつ、自分で自分の機嫌はとる。その両方を大切にしたいね。

伊藤:まずは自分の体や気持ちの健康を大切に。そのために働き方も休み方も、主体的に選択していけるようになれば、生理に振り回されない生き方に繋がりそうです。

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男女関係なくひとりひとりが、自分自身の体と心を思いやること。そして相手のそういう姿も愛しく思うこと。それが叶えば、私たちはもっと生きやすくなるのかもしれません。

伊藤華英さん・鈴木明子さんおふたりの、現役時代の生理にまつわる葛藤や、現代女性が生理とうまく付き合うための方法については、こちらでご紹介しています。ぜひご覧ください。



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