第十二章 想い出⑨
それから……。
一哉と岬は、一緒に仕事をする事がどんどん増えていった。
あたしは、そんな現実からは眼を反らす事しかできずにいる。
ブリリアントだけが、あたしの唯一の居場所だった。
けど、けどね……。
一哉は、本当にKYだから……。
岬を引き連れて、ブリリアントへとやってきたのだ。
更には、他の歴代グランプリ受賞者達をも引き連れて……。
「梨紗♪皆連れてきたよ」
なんて、呑気な一哉。
あたしの顔は、きっと引きつっている。
とりあえず、一哉の隣に座れるのはありがたい。
ところが、どこまでKYなんだか知らないが、
「梨紗、間入ってよ」
はい?
一哉と岬の間に、ですか?
あたしは、キャバ嬢。
歌舞伎町一の。
プライベートを関与しないで、冷静になるんだ。
冷静に、岬の隣に座るのだ。
神様……。
これは、一体全体どんな悪戯なの?
あたしと岬は、一言も話せずにいた。
一哉が他のホスト達と話している時に、口火を切ったのは……。
岬だった。
「元気そうやな」
話しかけられた事にびっくりして……。
「うん、元気」
そう答えるのが、精一杯だった。
「一哉さんと付き合ってるなんて、知らんかった。上手くいってるん?」
「一緒に住んでる」
「そうなんや。上手くいってるんやな。お前が幸せなら、それが一番ええ事や」
岬は?
幸せ?
あたしと別れて、幸せだった?
質問するまでもない質問。
幸せだったから。
大成功していたから。
今、ここに成功者の証として、あなたは存在している。
「一哉さんと付き合ってるなんて、すごいな。オレの憧れの人や」
「……そうなの?」
岬の憧れの人が一哉だったなんて、今初めて知った事実。
「そりゃそうやろ。あんな風に、一哉さんみたいに有名になって成功するのが夢やねん」
あなたのそんな夢を、あたしは初めて聞きました……。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?