第五章 冷戦④
大音量の中。
あたしは、バーカウンターでジーマを頼んだ。
瓶飲みなんてしていたら、日向梨紗の名に傷でもつくだろうか笑。
「あ、HEARTYの梨紗だっ♪」
ニッコリ微笑む。
「ねえ典子、鈴は?」
「ラウンジにいるよ。充とラブラブ中だから邪魔しない方がいいと思うけど笑」
てか、典子だってナンパ男といい感じやん。
あたしだけ、一人かよお……。
ラウンジへと階段を上がっていく。
「あ、梨紗っ♪」
「鈴!何、酔っ払ってんの?」
鈴のテンションが、何だかやたらに高いような気がする。
「梨紗っ♪あたし、かなりご機嫌だよん♪」
「ミッチー、鈴、何でこんなにハイになってんの?」
「知らん。鈴、飲み過ぎなんじゃねえ?」
ミッチーは、ボーッと階下で踊っている人達をガラス越しに見つめている。
「鈴……何飲んだの?」
「梨紗もやるう?充にもらいなよ♪」
「……何を?」
え……。
鈴は、あたしの耳元でそっと囁いた。
「充、あんた何やってんの?」
白い粉。
覚せい剤?ってヤツ?
自分には、縁のない世界だと思っていた。
だが、今眼の前にあるものは……。
初めて見るもの。
充と鈴がこんなものに手を出しているだなんて……。
「梨紗、お前誰にも言うなよ?」
充にそう言われて……。
言えないよ、こんな事。
誰にも……。
でも、やめてよこんな事。
どうしたらいいの?
あたしは、鈴と充を置いてフロアへと階段を下りていった。
「梨沙!何、ラウンジ行ってたの?」
「典子……あたし、先帰るわ」
「え、どうしたの?何かあった?鈴は?」
「もう知らない。あたしの友達……皆堕ちるところまで堕ちるのかもしれない」
「へ?どういう意味?」
ハテナ顔の典子までも残して、あたしはクラブを一人出て、タクシーを捕まえた。
もう嫌だ。
どうしてだろう。
鈴……。
鈴まで失いたくはなかった。
止める事。
あたしに、できる?
栞ですら止める事ができなかった無力なあたしに?
何故だか、涙が流れた。
「お客さん、大丈夫?」
タクシーの運転手さんにまで心配される始末だ。
「うん、大丈夫……」
そう答えるのが、精一杯だった。
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