第十二章 想い出⑪
岬との事を過去にするには、まだまだ時間がかかるみたいだ。
だって、まだ一年前の事なのだから……。
営業終了後。
あたしは、一旦自宅へと帰ってから真っ赤なポルシェをぶっ飛ばし、お台場の海までやってきた。
ボトルを空けなければならない時には酒を飲むが、酒を飲まないで済む日には飲まない。
ヘルプの子達が飲んでくれている。
神様、意地悪です。
岬にたくさんの迷惑をかけた事や、当時の全てを思い出した。
岬はあたしの人生の一部であり、岬と当然結婚するであろうと思っていたあたし。
いや、二人共そう思っていたんだ。
どこかで、お互いの歯車が狂ってしまった。
でも、全ては過去で……。
過去だからこそ。
番号を知っているのにかけないでいる事は、どれだけ辛かっただろうか。
そして、そんな自分の弱さに勝てなくて。
あたしは、アイフォンごと変えたのだ。
岬との縁を断ち切る為に……。
こんな形で、もう一度出逢うだなんて。
岬との過去の方が大事で……。
今の、この生活よりも?
岬との過去が現在になってくれたら……と、心底思うのだった。
そして、また吐き気が止まらなくて。
たくさんたくさん吐いた。
「一誠」
「梨紗?どしたん?」
「一誠は、あたしを愛してますか?」
「どしたん、急に」
あたしを見つめる一哉。
あたしの視界に入る一哉は、相変わらずかっこいい。
「愛してるよ。本当に愛してる」
「抱きしめてくれる?」
「梨紗は甘えん坊だな」
あたしを優しく抱きしめながら、そう言う一哉。
「梨紗の髪、いい匂いする」
「ふふ。同じシャンプー使ってるのに?」
あたしの一哉。
過去の想い出を塗り替えてくれる事ができるのは……。
あなたしかいない。
そして、寝室の扉をそっと閉め……。
今愛している一哉を、これからも一生愛し続けていくんだろうと思った。
――― 完 ―――
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
ご存知の通り、ストーリーは中途半端なところで終わっています。
続きが気になる方は、『蝶々とサナギ2』を是非読んでみてくださいね。
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