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薬指馬鹿力フォーム

突然ですが皆さんは文庫本を読むとき、どう読んでいますか?ブックカバーはかける派ですか?かけるとしたら自前のと書店の紙のものと、どっち派ですか?栞はどうしていますか?私は、絶対に本を汚したくない派です。絶対に汚したくないと言いつつテーブルに積み重ねたり乱雑に鞄に入れて持ち歩いたりもするのですが…。でも基本的には本を綺麗なまま保存したいのです。そこで編み出した方法が、こうです。

①書店の紙のブックカバーの表紙側を一旦外します。
②表紙側をブックカバーに上下固定されている状態からただ表紙をブックカバーで挟んでいるだけの状態にします。
③文庫本をソフトカバーもろとも書店の紙のブックカバーから1㎝ほど上にずらします。
④文庫本の背幅の分だけブックカバーの下を折り込みます。
⑤折り込んだ所を薬指で支え、本全体を人差し指、中指、薬指で支えページを親指の第一間接で押さえます。左手はページをめくる際のみ使います。

もっと近くで見てみましょう。このような持ち方となっています。

これが私の全ての知恵を絞った本を傷つけない持ち方です。まず指の腹、つまり指紋のある部分が長時間本に触れてはなりません。本に使われている紙というのは非常に繊細です。手の汚れるものを食べながら読書すると紙が汚れてしまうのはもちろんのこと、もし少しでも本の内容に手に汗握ってしまった場合、その時の汗の結晶が数年後指紋となってページに刻まれることでしょう。次に、本の背表紙の下の部分も傷つきやすい部分です。机に立てて本を読んでいた場合、背表紙の下角は黒ずみ、古びてしまいます。それらの損傷を防ぐフォーム、それがこの薬指馬鹿力フォームです。慣れるまでは薬指に負荷がかかりすぎて薬指がつることもありますが、慣れると人差し指、中指に力を分散させ優雅に読書を楽しむことができるのでご安心ください。

読書の際に本を守る方法は以上です。次に、本を保存する際に本を守る方法についてお話したいと思います。本を保存する際避けるべきは日光と埃と虫と煙草です。順番にいきます。まず日光についてはお部屋の中でなるべく窓から離れた場所に本棚を設置しましょう。少しの時間日光に当たる分には問題無いのですが、何年も日に当たると本の色が茶っぽく変わります。それはそれで月日を経た本の歴史を感じて風情のあるものですので、気にならない方は日当たりのいい場所に本棚を設置しても良いかと思います。早く風情が欲しい方は積極的に本の背表紙と反対側、白い方をお日様に向けて置いておいたらすぐに日焼けして古い歴史ある本のように見えます。ただ本を買ったとき同様白く真新しいまま保存したい方は以上の方法を取ることをお勧めします。次に埃です。埃は乾いているうちは払ってしまえば良いのですが、湿気と一緒になると本に付着して黒っぽくなってしまったりカビの原因ともなる侮れない存在です。カビてしまったら風情とも言っていられなくなります。一番良いのはドア付きの本棚ですが、100円ショップにチャック付き文庫本ケース、ハードカバーケースが売っているので彼らが本を守ってくれます。背表紙の部分がビニールになっていて背表紙も見える優れものです。次に虫です。本は意外に虫が発生します。新刊で買ったものはそうでもないのですが、古本だと時たまページとページの間にごくごく小さな虫がいることがあります。生きてます。本から虫が発生するメカニズムについては私も調べていませんが発生することはたしかなので、これはもう古本を買う際は1度ページをざっとめくって確認するくらいしか出来ることがありません。今のところその小さな虫に本のページが食べられてしまっただとか大量発生しただとかそういった話は聞かないので害のないものだとは思いますが、気になる方は新刊と古本を別に保存すると良いかと思います。最後に煙草についてです。スモーカーかつ本を守りたい方は、読書の前に2回ほど手を洗うと良いかと思います。煙草のヤニは何より早く紙を変色させます。なるべく煙草を吸う場所から離れた場所で読書するか、窓を開け放って読書するのが良いかと思います。また煙草を吸うのと同じ部屋に本棚を置く場合はやはりドア付きの本棚をお勧めします。盾が無ければまたたくまに全ての本は黄色っぽくなり煙草の香りになります。しかし煙草の香りの黄色い本にも風情はあるのでそれを楽しみたい方は本を裸で積んだまま煙草を吸いその手で読むとより早く風情が染み込む事と思います。

ここまで本をいかにして傷つけないかについてお話してきましたが、ここからは私の本の嗜好について少々お話致します。嗜好といっても内容の話ではなく本そのものの特性のお話です。

私はハードカバーよりも文庫本派です。理由は持ち運びが容易であること、薬指馬鹿力フォームが出来ること、本棚の場所を取らないこと、小さくて可愛らしいこと、安価でたくさん買えること、などが挙げられます。また文庫本には背表紙の上または下に「え 21-3」などといった記号が書いてあります。これは「え」が頭文字の作家の21区分の本のうちの3冊目ですよという意味ですが、この記号によって自分がその作家の著作の何冊目まで読んでおり何冊目が抜けているのかわかります。また本棚に並べる際に順番にのっとって並べると非常に美しい並びとなりまるで書店のようでワクワクします。ちなみにハードカバー派の友人にその良さを聞いたところ、字が大きくて読みやすい、サイズ感が本によって違い個性を感じる、表紙や背表紙のデザインが文庫本と異なる場合もあり著者の最初のデザインの意図を見ることができる、出版後すぐに読むことができる、ということを上げていました。文庫本もハードカバーもどちらも捨てがたい良さがありますね。ちなみに文庫本のことをペーパーバックと呼ぶことを私は最近になって知ったのですが、そのお洒落さに気恥ずかしさを感じるのでこれまで通り文庫本と読んでいきたいと思います。

次に紙質についてです。私は断然新潮文庫の紙質が好きです。ほんのり桜色の柔らかい紙。日本の小説を読むのにこんなにしっくりくるこっくりとした紙はあるでしょうか。他の文庫の紙は真っ白なものが多いです。同じ真っ白でも角川文庫の紙はページを繰るのに丁度いい厚みの紙を使用しているので角川文庫の紙は2番目に好きです。角川文庫は紙の栞を挟んでくれているのでそこも好きです。新潮文庫の栞は背表紙上から垂らされる紐の栞です。私は紐の栞だと次に読むときに栞のページを開くのにほんの少し手間取るため紙の栞の方が好きですが、それでもあの桜色の紙があまりに好きなため新潮文庫の文庫本が好きです。

このような理由と純粋に取り扱う内容の好みによって私はこれまで主として新潮文庫と角川文庫の本を多く読んできました。取り扱う内容の所感として新潮文庫は日本の文学の何でも屋さん、しかも小説好き向け、角川文庫は日本のエンタメ何でも屋さん、幅広い、という印象です。

しかしながら数年前恐ろしい文庫の存在を知りました。創元推理文庫です。この世のあらゆる推理小説、古今東西の探偵小説を集めた文庫。小説の延長のように楽しめるものからこれは恐ろしいものを読んだと封印したくなるものまで様々な本を取り扱っています。私は近頃書店に行くと必ずこの創元推理を眺めその禍々しい雰囲気を楽しみます。しかしながら創元推理文庫を読むには勇気と勢いが必要なので、あまり読みません。

また新たな作者に出会う際、私は好きな作家の友達の作家やあとがきを担当した作家を辿る方法と、読んだ本で小ネタとして触れられていた作品を辿る方法、書店で目についた本をとりあえず読んでみる方法の3通りの方法を使います。しかしながらほとんどの場合前者2通りの方法で探すのが実状で、リスキーな手当たり次第方式は昨今あまり使用しておりません。しかしながら、それでは同じ界隈の本ばかりを読むことになるのではないでしょうか。他の面白い文学を知ること無く歳を取ってしまうのではないでしょうか。自分の血肉となる読書の範囲が限られていることに危機感を感じつつあるので今後は手当たり次第方式も積極的に行っていきたいと思います。また創元推理文庫にも果敢に挑みます。

と、ここまで私の本への愛と嗜好についてお話させて頂きましたが実際のところなんでもいいと思います。私はこんな調子で本を読みますが、あなたの読み方はなんでもいいと思います。なんなら私の読み方もなんでもいいんです。本の保存の話をしつつ私のテーブルには今20冊以上の本が平積みになっていますし、ベッドの下から1冊出てくることもありますし、本棚の調子も住む家とお財布の中身によって変えています。ひどいときは鞄の中に夢野久作が1冊あることだけを支えに生きていました。本で虫を殺したことだってあります。人の本だけど。だから、なんだっていいんです。好きに読みゃいいんです。読まなくてもいい。本読む人が偉いなんてことは全くありません。本の世界は自由国家。読む人が偉いんでもなければ詳しい人が偉いんでもない、書いた人がみんな偉いかというとそうでもない、読んだからって賢くなるわけでもない。大体賢いからって偉いわけじゃないんです。自分で書いたっていいじゃないですか。じゃあ誰が偉いか?私は、優しい人が偉いんじゃないかと思ってます。私の目指すところの優しい人になるなら賢くて面白い方がいいんじゃないかしらと思うので、私は私なりに本を読んで何かを得ようとしています。神様はそこら中にいます。

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