観た映画の感想 #102『オッペンハイマー』
『オッペンハイマー』を観ました。
ノーランの映画は『インターステラー』が思い入れも含めて一番好きなんですが、そういう好き嫌いとか好みの問題は置いとくとしても、映画としての完成度でいうなら最高傑作級に仕上がってる一作だと思いました。
膨大な台詞のキレも時系列を細かく組み替えてシナリオを一本のタイムラインで見せない編集も、映画館という環境で最大限に効果を発揮することを織り込んだ音楽やSEでの盛り上げ方も今までのノーラン映画でずっとやってきたことで、でも一方で今までのノーラン映画に共通してあったドヤ感、というか狙って出してるエピックっぽさみたいなものはものすごく薄くなってて、あくまで一人の科学者の半生と、その周囲で起こった政治劇を伝記的にフラットに見せるような映画になっていたという印象でした。原案がオッペンハイマーの評伝だからというのもあるとは思うんですけど、エンタメ性を過剰に盛らないというのは今作が扱ってるテーマに対しても誠実な向き合い方なのかなと感じます。
原爆投下による被害が直接描かれていない、というのも批判のタネとして公開前に結構言われてたと思うんですが、じゃあ核兵器の恐怖というものに向き合っていないかというと全くそんなことはなくて、トリニティ実験のシーンとかめちゃくちゃ怖かったと思うんですよね。具体的には起爆までのカウントダウンを待ってる時間と、実験が成功(=核爆発が発生)してから遅れて爆発音が届くまでの時間。あの時間の緊張感はこの先何が起きるか、もっというとこの先に起きたことの更に先に何が起きるかを知ってるからこそのものだったと思うわけで。
総じて俳優の演技を観る映画でしたけど、やっぱりキリアン・マーフィーの芝居が素晴らしかったです。核実験成功後の、言葉で多くを語らずとも何かを耐えてるような目の演技もよかったし、そもそもオッペンハイマーという人がものすごく変わってる人だっていうのも、作中ではカラーで表現されてるオッペンハイマー視点の時間軸での演技で上手く見せてて。
ロバート・ダウニー・Jr.はアイアンマン/トニー・スタークのイメージが強くなりすぎた反動なのか、あまりロバート・ダウニー・Jr.感のない演技をしてたように思いますけど、彼も根は性格俳優なのでやっぱり上手いんですよね。
あとノーランの映画ってほんとに上手い俳優しか出てこないし、意外なところで意外な人が出てくる面白さもありましたね。予告には影も形もなかったラミ・マレックが唐突に出てくるところとか「えっ!」てなりましたし、アルヴァレズ役がアレックス・ウルフだったりグローヴスの側近にデイン・デハーンがいたりとか、まだ若手だと思ってた人が重みのある役にキャスティングされてるのも良かった。あと聴聞会でオッペンハイマーを執拗に攻め立ててた人。絶対に何かの映画で観たことある人なんだよなーと思ってたんですけど『ターミネーター:新起動』でジョン・コナーをやってた人なんですよね、ジェイソン・クラーク。僕はあの映画全肯定派なので、思い出した時のスッキリ感といったらもう(笑)
テーマがテーマだけに面白かったと単純に言っていいものかどうかは迷うところですけど、それでもめちゃくちゃよく出来てて面白い映画でした。なんだかんだでノーランは良い。
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