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読書記録『うさぎとマツコの往復書簡』

敬愛するマツコ・デラックスと私のようなメンヘラからしても胸焼けするような経歴(デリヘル、買い物依存症、ホス狂い…)のオンパレードである中村うさぎさんの文通日記のようなもの。

私はマツコさんの大ファンで、『デラックスじゃない』は繰り返し読んでいる。テレビよりもスパッと清々しい物言いが目立つエッセイは読んでいて気持ちがいい。どうして物怖じせずにものを言えるのか。バッシングが怖くなったり、保身に走りたくなったりしないのか。それに対する答えは『デラックスじゃない』にも記されているし、『うさぎとマツコの往復書簡』でもお二人とも触れている。

でも、メディアのオカマタレントは、その差別を「治外法権的特権」として利用してきた。男に対しても女に対しても「あんたたち」という二人称を使って毒舌を吐けるのはオカマだけ。(『うさぎとマツコの往復書簡』、P66)
※中村うさぎの発言
そう、アタシはよく判らない規格外の人だ。けれども、紛れもないゲイの女装癖だ。笑われてなんぼなことも、治外法権であることもよく解っている。それを最大限利用し糧を得るしか生きる道はないことも。(『うさぎとマツコの往復書簡』、P70)
※マツコ・デラックスの発言

「よく判らない規格外」のオカマタレントは今までもいた。でもそれを自覚しているタレントはいたのだろうか。少なくともマツコ・デラックスのように、自らのことを化物だとか笑われてなんぼだとか、自嘲を込めず発言できるタレントは私の記憶にいない。

私は「人間がナルシジズムに目を眩まされず、どこまで客観性に近い自意識を持てるか」という問題に、本気で、己の身を持って取り組みたいと思ってるのよ。一生かかっても無理かもしんないけど、それでも挑戦したい。(中略)そして、私が「魂の双子」と勝手に決めつけたマツコには、私のテーマを引き継いで欲しいの。(『うさぎとマツコの往復書簡』、P72-73)』
※中村うさぎの発言

マツコはこのあと、これを引き受ける旨の発言をしている。マツコがどれだけ自分を蔑むようなことを言っても自嘲的ないやらしいニュアンスを感じないのは、自分自身のことを客観視しているからではないか。マツコが自分自身を見ている目と、私がマツコを見ている目に差異が少ないと思う。それどころか、たまに差異があっても「確かにマツコの言うことが正しいな」と思い直すことのほうが多い。

私の友人が就職活動の際に行う自己分析について、「20年以上も生きていて自己分析しないと自分のことを理解できないなんてどうかしてる」と言っていた。当時の私はその友人の言うことに同意した。けれど就職してからは自分のことがよく分からなくなり、他人のことも自分のことも分からず迷子のように毎日を生きている。今更ながら自己分析を繰り返している。そんななかでマツコ・デラックスは私にとって最も自分自身のことを理解している存在であり、希望を感じる。自己を問い続ければきっと自分を理解できる。その先に幸せがあるかは別としても…。

ここまでは前置きのようなもので、以上のように私はマツコ・デラックスにだいぶ肩入れしている。中村うさぎさんについても経歴についてはなんとなく認識していた。しかし、前述したようにデリヘル・整形・ホス狂いなどの文字列は胸焼けがして敬遠していた。私がメンヘラ全盛期の頃は中村うさぎにももう少し興味があったとうっすら記憶している。彼女の著書に触れる機会なく現在に至る。

予想に反して、私に刺さったのはマツコの言葉よりも中村うさぎの言葉だった。

私の毎日はほぼ地獄だったけど、その地獄の最中に天にも昇る恍惚感がった事も確かなの。天国って、地獄と対局の場所にあると思っていたけど、違ったわ。天国は、地獄の真ん中にあったのよ!(『うさぎとマツコの往復書簡』、P106)
※中村うさぎの発言
とにかく人生は私にとって、地獄の業火の中で天国の恍惚に浸される泣き笑いの日々だったわけ。でも、私はバカだから、地獄の真ん中にある天国を、まさかこれが天国だなんて思いも寄らず、ずっと「この地獄を抜ければ、そこにきっと眩いばかりの天国が待っているに違いない」と思い続けていたのよ。五十歳にしてようやく地獄から這い出たと思ったら、そこには天国なんかなくて、砂漠が広がってるだけだった。愕然としながら振り返ってみると、さっき命からがら抜け出してきた煮えたぎる地獄のマグマの真ん中に、キラキラと輝く天国があるのを見つけた。なんだ! 天国は、あそこにあったんじゃん! 私はまんまと地獄から逃げ出したと同時に、天国まで失っちゃった! もう一度、あの天国に戻ろうとするなら、また地獄の焔を潜らなくちゃいけないんだ。(『うさぎとマツコの往復書簡』、P107)
※中村うさぎの発言

今までの私の人生はジェットこースターのようだった。思い返してみてもまさに地獄であり、天国とは正反対だと思っていた。しかし恍惚とするような瞬間はたしかにあった。そこは天国と言っても過言ではないくらい、私にとって多幸感をもたらしていた。今は地獄とは程遠い生活をしている。地獄から這い出てやっと安定を手に入れたと思っていたけど、私は同時に天国も手放したのかもしれない。それを不満とは思わない。中村うさぎさんも言っているが、あの地獄に戻るような体力はない。ただ、「お前は天国を手放したんだよ」と中村うさぎに言われている気がした。

以上。

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