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先行開発と問い

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この記事は、UXリサーチ/デザインリサーチ Advent Calendar 2022参加記事です。

こんにちは、デザインスタジオトークアンドデザインの今西(@no_imanishi)です。

今日はデザインリサーチ・UXリサーチに関わるお話しで、ここ数年、そうしたリサーチにも関わらせていただいている中で感じたちょっとした小話(あるいはエッセイ?反省文?)を書きたいと思います。

メーカーには先行開発というものがありまして…

私は新卒から17年半、家電メーカー〜自動車部品メーカーにいました。ハードウェアを作っている会社(だけじゃないかもしれないけど)には「先行開発」という言葉があります。ちなみに対語は「量産開発」です。製品化が決まっていて開発を進めているものが量産開発、次の新しいプロダクトのための仕込みや提案が先行開発になります。

勿論、先行開発のその先行具合の幅は広くて、大きな会社であれば研究所があって素材レベルの超上流やってる場合もありますし、次の商品どんな機能や商品があったらいいかな…というレベルもあります。もちろん、企業の中でやることですから、いつかは事業として収益化されることを念頭に行われます。
最近はあんまり使わなくなりましたが、デザイン部門が行う先行開発は「アドバンスドデザイン」なんて言われたりもします。

累々たる瓦礫の山

メーカーに長くいましたし、何やら先行開発に巻き込まれがちな運命でもあるらしく、先行開発に携わる機会は多くありました。部門レベルで取り組む提案もやりましたし、全社としてのチームで今後のビジネスを開拓するためのものにも携わりました。

それで感じてきたのが、「空振り、多すぎでは?」ということです。つまり、やったことが事業に結びついていないのでは?ということです。もっと言うなら、打ち捨てられた累々たる瓦礫の山と言ってもいいくらい。

もっと高画質にする・もっと軽量にする・もっと速くする…という方面はまだいいのですが、商品や機能の新しい提案はその後の鳴かず飛ばず具合がちょっと酷すぎる気がする。成功のための学びの場として失敗を許容するというのとは別の話で……誰も喜ばず、実はやってる当人もちょっと腑に落ちず、次のアクションの無い場所に行き着いてしまう感がある。結構なお金と人材を費やしているはずなのですが……。

自分が関わった提案でも、大変な思いをしてプレゼンまではしたものの「あれで何を得られたんだろうか?」という気持ちを抱えたことは幾度もあり、なんなら、プレゼンしている最中からすでに、自分の言っていることに自分が一番疑問を感じてる…ということも多くありました。

新しいもの・売れるもの・儲かるもの・次の事業になるもの……提案しろとせっつかれて走ってきて、一体これは何なんでしょう?

足りないものは「問い」

会社の軛(くびき)から解かれて数年、色々学び直しなんかもして、ありがたいことにデザインリサーチにも関わらせてもらうことがあるわけですが、そうした実践の中で、はたと気づいたことがありまして。


界隈の皆様にはお馴染みですが、デザインリサーチ的観点では解決に着手する前に、問題のリアリティに触れ、気づきをえて、問いを定義することを重要視します。そして問いがリサーチと解の展開をつないでくれます。具体的には、"How might we" Questionsが活躍です。

問いやHow might weとは何かについての説明はしませんが(木浦さんの本に書いてありますからね)、この大事さ、馴染んでくるについて、タダゴトではないという気持ちになってきました。頭のなかであの累々たる瓦礫の山と繋がったのです。

多大な努力を注ぎ込んだわりにどうしてもよい終着地に行き着かなかったあの先行開発、「問い」が全く足りてなかったぞ……と。

問いが無いから、意義がスッキリ説明できない提案が出来上がる。これで未来が切り拓けるね!という気持ちにもなれない。苦労のわりに思いつきに見える。商品化事業化の道筋も見えなくなる。

提案物の発案や開発に多くの労力が割かれる割に、何が人々の問題なのか、その問題は本当に実在するのか、その問題について詳細に心のひだまで理解できているか…こうしたことに労力が割かれることは稀だったように思います。そうしたリアリティに触れることなく、インサイトを得ることもなく、闇雲に何かを産み出そうとしていた。振り返れば、そこがあまりにも杜撰だったんです。

問いを作ろう、問いを磨こう

なので、もしどこかに先行開発をやってらっしゃる方がいたら、アドバンスドデザインに取り組んでいらっしゃる方がいたら、是非ともアイデアを考える前に問いを作り込みましょうとお伝えしたい。

問いは課題の定義である一方で、機会を示し解決のアイデアのジャンプ台となるものでもあります。書き方一つでアイデアの出具合も変わります。ほんの短い文ではあっても、よく検討することには価値があります。

そして、その問いが、事業に意義をもつと認められるのか、この段階で立ち回るべきです。それをやらないから空振りになるんですよね。

問いを思い込みで書かない、ユーザーとなる人と交わって、現地現物から気づきを得て、インサイトに基づいて書くものだということも改めて強調したいと思います。「ユーザーリサーチ役に立たない論」はしばしば跋扈しますが、現地現物からの本物の気づきなしに、創造的な問い無しに、どうやって新しいプロダクトが生まれるのかと、(色々苦い記憶を思い出しながら)声を大にしておきたいと思います。


参考:




【宣伝】小さなデザインスタジオをやっています。問いを一緒に作りたいよ…という方がいらっしゃいましたらお声がけくださいませ。



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