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「おたくのシステム、UIがイマイチでは?」と言われたときのアプローチ考

こんにちは、トークアンドデザイン代表の今西(@no_imanishi)です。

さまざまなシステムのユーザーインターフェース(UI)に関するお仕事をさせていただくことがありますが、実際のところ、新しいシステムの新しいUIを作るケースより、今あるシステムについて「顧客から不満の声が出ている」「競合と比較されて劣ると言われた」「営業部門からなんとかしてほしいと言われた」「トップから改善指示が出た」というような改善についてのお話が多いです。現実の開発現場では自律的に改善を動かせるUI担当者がいないというケースも意外によくあり、お声がけを頂戴したりします。

正直なところ、本当の問題はどこにあり、どういうメスの入れ方をするのが効果があるのか…を考えるところから一緒にさせていただくのがお客様にとってメリットが多いと感じています。
(宣伝:お困りの際はお声がけください!)

一方で、問題を理解するための枠組みがあれば、UIデザイナー以外の人、例えばプロダクトを統括しているマネージャーさんやシステムの外販の最前線にいる営業さんが、改善について考える足掛かりになるのかなという気持ちもあり、ここでは、問題にアタリをつける枠組みについてお話したいと思います。

「UIがなんか良くない」のいくつかの類型

なんか良くないって言われた…という案件をいくつかみてきた経験から、問題のタイプにいくつかの類型がある気がしています。あくまでも類型であり、アタリをつける仮説にすぎませんから、より詳しくシステムを確認しつつお話を聞いて理解していく入り口…という感じですが、以下にその類型をあげてみたいと思います。

Lv.1 見た目が悪い

どちらかというと、もし「見た目悪いんで綺麗にしたいです」と言われたら、ほんとに見た目だけの問題かな?という感じの構えでお話を聞くのですが、確かに長い歴史のあるシステムだと、時にびっくりする様な配色だったりするケースもあるので(ある分析ソフトをいちユーザーとして使って「有名なソフトなのにどうして…」と思った経験が私もあります)、営業の妨げになるからこれなんとかしましょうというケースもなくはないです。ただ、問題の真因がここなのかは、早合点しない様にする必要があります。

確かに見た目に問題があると言いたくなるが、不満足の真因として早合点は禁物。


Lv.2 UIコンポーネントの使い方がおかしい

エンジニアさんだけで作られたシステムとかで、たまにあります。使えないというほどではないのですが、操作するUIコンポーネントの選択が不適切だったり、一貫性がなかったりで、ユーザーが小さなストレスをジリジリと積み上げて、システムの評判を下げてしまいます。

UIコンポーネントの使い方の改善例
(とてもとても基礎的な例ですが、実際に弊社にてお見受けした事例です。)

そのほかにも、キャンセルの仕方に一貫性がないとか、ボタン等の操作できるもの表現に一貫性が無い等々、問題のバリエーションは色々あります。

ここだけに限って言えば、ある程度経験を積んだUIデザイナーがいれば、淡々と整理して改善していける問題でもあります。一方で、これだけが問題ってことはあまりなく、他の問題と一緒に存在していることが多いです。

Lv.3 隠れ操作パターンが存在している

ある業務タスクをこなす方法が、明示的に用意されておらず、利用者の間で対策方法が口伝えで共有されている状態です。

例えば、販売管理システムにおいて、返金が発生した場合に明示的な返金
操作の方法がなく、マイナス金額の販売として入力することで運用している……といったものがあれば、典型的な隠れ操作パターンと言えると思います。

ユーザーから見ると、画面や操作ボタンなどからシステムの使い方を学んだり思い出したりするきっかけが得られず、利用に伴う負荷が高くなってしまいます。

厳密には後述する「用途と機能の不一致」の一種ではあるのですが、タスクが一応の解決をみているため、現場にいないと問題に気づかず、なぜか評判が良くない…となっているケースがあり得ます。

成長途上のシステムの場合、開発することを出来るだけ抑えて(=少々のことは人間の運用でカバーしてもらう)、ニーズのツボを探ることがビジネスを上手く軌道に載せるために重要という側面がありますが、マジョリティユーザーが使うフェーズになってくると、こうしたことが不満足要因に転化しえます。満足度を下げている原因をいかに突き止められるかというのがポイントになります。

Lv.4 画面内の表示やレイアウトが、情報の性質や状態を適切に表していない

ダッシュボードの様な画面にせよ、入力フォームにせよ、ユーザーの頭の中にある情報の関連性(メンタルモデル)を裏切る様なレイアウトや表現になっていると、学習のコストが高く、利用時の理解負荷も高いシステムという印象を与えてしまいます。

レイアウトが誤った理解を促してしまう例

簡単なところでは、大事な情報が小さく表示されて、滅多に使わないボタンが大きかったり…といったのもそうですし、文言が不適切だったり、アイコンがミスリーディングしていたり、線の引き方ひとつでグルーピングが正しく見えなかったり、問題のバリエーションは多岐に渡ります。

こうして引き起こされる認知ミスは時に重大な結果を招くこともあります。少々極端な例ですが、運転員の操作ミスが原因とされるスリーマイル島原発事故も、操作ミスを引き起こした遠因に秩序と一貫性を欠いた中央制御室の制御パネル表示があったことが指摘されています。
(ちなみに、UI側面からのスリーマイル島原発事故については「ユーザーフレンドリー全史(双葉社)」に詳しいです。)

この問題の対処の難しいところは、問題を言葉にできるユーザーは少なく、多くの場合「なんか分かりにくい」としか言ってくれないところです。それぞれの情報はどういうもので、何を意図する画面なのか、しっかり解きほぐしていくことが大切になります。


Lv.5 迷路化している

少しづつシステムが大きくなった場合には(多くのシステムは秘伝のタレ的に大きくなります)、確かに必要なことはやれるのだけど、ユーザーの学習負荷が高まりすぎてしまうというケースがあります。

単純に量だけの問題ではなく、文言が揺れてシステム像の理解を妨げてしまったり、分類が適切でないケースなど、様々な状況があり得ます。

私が遭遇した一例として、家電のリモコンに「設定」ボタンが二つ(確か「設定」ボタンと「デジタル設定」ボタンの二つでした)付いていたことがあります。システムが大きくなる過程で内部構造が大きく二つに分かれてしまい、それぞれに設定メニュー画面が生まれ、対応する「設定を呼び出すボタン」が生まれてしまった様です。
一般にシステムの内部構造はユーザーには関係がないので、ユーザーはただ複雑さを感じただけでしょう。

対処としては、今あるものを丁寧に整理していくケースもありましょうし、根本的にUIの構造を作り替えてしまうケースもありえます。業務システムなどで根本的にやる際には、オブジェクト指向UIを徹底するという方向性がファーストチョイスとなり、メスの入れ方は大きくなりますが大抵の場合大変シンプルなシステムになります。

手続き型UIとオブジェクト指向UI


Lv.6 用途と機能の不一致

提供している機能が、ユーザーの業務や課題解決にフィットしていなかったケースです。

例えば、在庫管理システムはあるけれども、必要としているのは販売状況の確認で、一定期間ごとの在庫の差分を手計算して販売数を判断している様な状況があれば、それは用途と機能の不一致と言えるかと思います。

この場合、「〇〇機能が無いから不便だ」という声が上がってきやすい状況になりますが、業務の実態を詳しくお聞きしながら理解を深めて改善を進める必要があります。「料理が多い」というクレームの本当の原因は「料理が不味い」ことだった…と言う様なことがあり得るからです。

Lv.7 動作が遅い

エンジニアの方からすると「そんなこと言われたって…」となるケースも多いのですが、動作速度が満足度に与える影響はかなり大きいと言えます。
ウェブサイトの表示スピードがユーザー行動に与える影響については、色々なレポートが発表されているのでご存知の方も多いと思います。

スマートフォンでウェブページのロード時間が1秒から3秒へ増加すると32%離脱者が増える。
出処:https://www.thinkwithgoogle.com/intl/en-ca/marketing-strategies/app-and-mobile/mobile-page-speed-new-industry-benchmarks/

もちろん、主にデスクトップ環境で使われる業務アプリ、産業機械や家電等の組み込みシステム等々では「離脱」という話にはあまりなりませんが、その分速度が「満足度」に与える影響は大きいと言えます。(誰しも、古くて遅い業務システムに悩まされた経験はあるのではないでしょうか。)

ただ、この対処はかなり難しく、狭い意味でのデザイナーの範疇でできることは少ないので、エンジニアさんと協議しながらできることを探していくことになります。

結局どこから取り掛かればいい?

もちろん、ケースバイケースではあるのですが、ここまで何度も繰り返してきた通り、「丁寧にユーザーの話を聞く」ことが第一歩であることが多いです。UIの良し悪しは結局のところ満足度という抽象的な概念で測ることになるので、「なんか良くない」の本当の思いは人の心の中にあるからです。

そして、システムが成長する存在である以上、ユーザーにとって良いUIであり続けられる様、ユーザーから常に学び続けられる組織を作ることが、最も重要な点かと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。



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