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#詩

きれいさが ささっていて

きれいね 世界樹は

濃闇にそびえ 発光する幹の
繁れるのうみその葉の
したたる幾千のゆりかご

ゆりかごは いいな
みちみちた血のうろ
いいな 凶器を持っているから
きれいで 燐光 しびれ
        しびれ

古い裂け目から
動かなくなって、わたし
いのちある
いしになって うずいて、
うず うずき
ただ あの樹は
きれいね とても 遠く

わたしは雨
あなたたちの横に、下に、水に、やがて

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夏の燃えてのちの

違う季節が幕を開けて
もう会いたいとも思えなくなってしまった

少し
外が明るくなった
それか遠のいたような

ある日おとずれたものがあって
空っぽだった、
ぼくのなかに何かをいれてくれ
それが彼の形をとり
ぼくは一人ではなくなったけれど
その彼はぼくのなかから出ていってしまった


家とはなんだろう?
なぜ家にいなきゃならない?

なにかを見たいわけじゃない
行ったところでなにも用もない
どこ

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サーカス・続

人々はなおもサーカスに興じ続けた
サーカスはなかなか去らなかった
町で人々の帰りを待つ家族は
サーカスをすっかり厭うていた

キリンやジャグリングに飽いても
ゆくても知らぬ郷愁があり
帰ろうというものはなく
誰もテントから出てこない

供犠のように 罪人のように おざなりに
豚が片付けられてゆき
遥かな音楽を聞きながら
こころは過ちを優しく織りなした

彼らは思うほどの未来にいるのでも
きれいな現

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Rendez-vous

ここには意味があり過ぎる
といってかれは 疲れたはにかみ笑いを作りました

髪の上、あふれるほど慈しむ眼差しをつぐ
月がでました
きのうとおんなじ月が

石は溶けては また、固まり
蝶には蝶の時間が ながれ
なにも見ない・なにも感じない、
それは 幸せでした

つめたく、やさしい、夜はまだ青い

雪呆け

きせつはずれてふるゆきに
ふらせるたれかとじこめて
こえはたあつきこぼれいる
ぬぐうさまにておしこめる
よもなしわれのすがたみゆ
くもれるうちにはれまみゆ
かかみのごとくなみだみゆ
ちしおいてつくさきほそり
ほねにもにるかとりのあし
おもひいだせばいにしにて
たれかわすれぬゆきのそら
たれまつあなたしるけれど
いまもひとまつかいのなく
あすようなくてひとはなし
えいゑんにてあれそこにあれ
ちさきへ

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けふ晴れ

てふがなんびゃく
過ぎてゆくけふ

鱗粉は希み、ふあん

睫毛に光りの重み
……速い涙
風に星舞う
風の中も布く宇宙

てふが過ぎゆく
重力を返す
裂けた空が近い

音撃は心砕いて
地に還る
飛び立つ
なにも
なにも
なにも
ない

てふが物言う
ひと日わたる

しゅうだんは
意志をもつ

てふは物言わない

てふがやってくる
地舐め草舐め
斑の翅は陽を
透かさない
斑の
自らが
厚く

惑いたて

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酩酊

大あくびして転がった月を
橇みたいな薄い雲がキャッチ
寝惚けまなこもまたたいて
夢の世界を告げている
光に酔っ払って
今夜星たちが雪崩れだす
あるいは曲芸?
みんな同じ方へ滑りだす
馬が小川を飛び越えて
愛しのつがいが待っている
お山のむこうをらんらんと
まなざすひとみは夢もよう
お腹はどんどん膨れてく
理想のこんぺいとう、ああ
食べ尽くしてしまえばいつか
それは悪いこんぺいとうとに
すり替わって

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白日

蛇が昼寝している

木から落ちているのに
ぜんしん、時のないように
動かない
陽は風をくぐった
実はついて落ちている
蛇のかたちのゆめ

ぜんしんが
熱そうだから
庇しの代わりを探してこよう

にんげんの
子供らが
悪さしないよう見張っていよう

  ★

あめ、色、そして白

ゆめを聞く……………………ゆめは消える……

冥府の扉は閉じていて
怯むほど速く遠ざかり
とこしなえにここにおり


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メルクリウス

瞳・カテドラル
拙いデッサン(方法論)
楽しそう、楽しそう悪魔
鳥のイメージ……イマージュ
ノン・エクステンション
天使は腹の底で寝覚を待つ
「我と我」出逢う犬、待つ
沫、松、茉、マツ?
採光のよい室内は立方体
おつむがこわい、帽子をのせて!
今日、今日もあそこへ
羽を生やして(ドアの前まで)
埃まみれの――。

飼いならされた水
退屈と遊んで
もう覚えた、歴史の足音
いっちに、
いっちに、
いっ

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緋の浜

斜陽が横つらを刺す
しかし斜陽は遥か遠く
また眼差しの先も遠い

緋の顔料でもって顔は
塗込められ、顔はしかめられ
谷が生まれ影が生まれる
谷には疾風が吹き荒む

鳥の群の影

矢は遥か遠くに飛ぶ
顔は遺影を抱えている
葬儀を終えたばかりで
泊めてくれる人もない
鳥の群から離れた影

赤子のように
蠢いている

振り返るな――
あの偉大を
あの光背のもとに眠る
瓜二つの祖を
あの冷たく稚い死に様が

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暗い画

あなたは記憶
名前を知らないあなたは
天蓋につつまれて
枕に暗く水脈を流し
吐息に夜を織った

あなたの素顔を知らない
わたしは百合の香りに阻まれて
冷えた星のかがやきに
あなたの肖像を探して
鈴が鳴りやっと眠りにつく

両の目の奥に
ひとの白い額に
漆喰の高い柱に
焼き付いているあなたに
凍えているわたしが

戸外の野の原に鳴いている

空の水槽

空の水槽に水を入れても
空の水槽は空のまま

想いを入れても
水槽は透明です

誰が泣いても
そのままです

わたしは空いた椅子に
空の水槽をかけさせます

部屋にはわたし
ひとりです

手のひらのゆるやかな双丘に砂をつけて
対岸に灯る無数の窓あかりを見つめている

延々と続く空虚な波音が覆いかぶさる
夜が拒否反応を示し横顔を切りとった

痺れたように体のまわりを彷徨う腕
ひとみとは違えようもなくひとつの刻印だった

幾つの二人同士があり、また、あったのか
思いはなぜいつも、帰ってくるのか

波間から無数の霊が立ち昇る
闇は自ずから微光を産み落とす

この瞬間に浜辺を横切り、死んで

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秋帰る

日は日にあたって
日は風にあたって
輝いている
鳥は日にあたって
輝いている
鳥は虫を呑み下し
体からも輝いている
秋は許容している

鳥は硝子にいざなわれて
内側に呼び込まれてゆく
鳥はもう帰らなくなった
彼の行方は誰も知らない
秋はそれも許容している

やがて空が溶けはじめる
すべてのものを
内側に
星が呼んでいるけれど
答えるものは誰もない

日は日にあたり
日は風にあたり
すべてのものが

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