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俺の夢 #4

  夜の帳が下りると眼前に星空が広がる。

 正確には本当の星空ではない。眼下に広がる都会の夜景だ。デジタルサイネージの瞬き、渋滞した車両が織り成す天の川。時折、暴走バイクが流れ星のように走る。
  本当の夜空には、ホンの一握りの星、そして月が見えるだけだ。

  俺の今夜の仕事場は、眼下に夜景を眺めるタワーマンションの一室。
  リビングのソファーに浅く腰掛け、ノートパソコンのキーボードをカタカタと鳴らす。
  時折、氷を浮かべた琥珀色のグラスに手を伸ばす。鼻先で深く息を吸い込み、冷えたブランデーを口に含む。口の中で転がして味わった後、ソレが喉を落ちて行く感覚を味わう。
  再びキーボードを鳴らし書き進めていく。そんなことを何度も繰り返しながら、俺は記事を書いている。

  今日もいい記事が書けた。心の中で呟きながらエンターキーを押し、ノートパソコンを閉じる。それが合図かのように、ダイニングテーブルで大人しく待っていた彼女が動き出した。
  彼女の赤いマニキュアの手を持つ腕が、背中から俺を包み込みこみ、耳元で「お仕事終わったの?」と、嬉しそうに囁いた。

「少し時間がかかってしまったけどな。もう時間だ。そろそろ帰らないと」

 俺がそう言うと、背の低いソファーをスルリと乗り越えて隣に滑り込んできた。かと思うや否や、赤いペディキュアの綺麗な曲線を描く、冷ややかな脚を俺の脚に絡み付け「今夜は帰らなくていいと思うの…」





 というところで、バチン!という音とともに目が覚めた。

 何事かと辺りを見回すと、この前買ったばかりの冷感抱き枕を両足の間に挟んで抱えていた。その脚には、長く伸ばした蛍光灯の消灯用の紐が千切れて絡み付いていた。


 こんな冴えない俺が、都会の夜景を眼下に、酒を飲みながら仕事をするなんて夢、ましてや、美脚の彼女の家に呼ばれ、脚をからめられて「帰らなくていいと思うの」なんて囁かれる事なんて夢のまた夢。






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