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噂によると「根も葉もRumor」がすごいらしい──あの頃、素通りしていたあなたへ

2021年9月29日、AKB48の新曲「根も葉もRumor」が発売される予定だ。

高難度のロックダンスと畳み掛けるようなサビが印象的なダンスナンバーで、公式Dance Practiceビデオが公開されると、発売前から多数の「踊ってみた」が投稿されるなど少しずつ話題を呼んでいる。


この曲の歌詞の解釈の軸は冒頭、1番Aメロの2文にある。

ちょっと会ってないうちに
見違えるくらい
ルージュが似合う女と
呼ばれてたなんて…… 

だってあの頃はまだ
ポニーテールにシュシュ
声なんか掛ける気になれずに
素通りしてた

言わずと知れたAKB48黄金期の代表曲「ポニーテールとシュシュ」を引用した印象的なフレーズ(この部分ではダンスでも「ポニーテールとシュシュ」の"指揮者"のフリを引用している)。

ストレートに読むと、「ポニーテールにシュシュ」のあの頃には"君"に興味のなかった主人公が、ちょっと会わない間に「ルージュが似合う女」になった"君"に心惹かれる、という内容だ。

これをAKB48というグループ自身に重ねれば、「根も葉もRumor」では、

『ポニーテールとシュシュ』で"国民的アイドル"をやっていた頃のAKBにはまるで興味のなかった人が、「いつの間にか変わっていた今のAKB」を思わず気にかけてしまう……

というようなターゲット設定がなされていることが分かる。


ここで比較対象に挙げたいのはAKB48令和1枚目のシングル「サステナブル」である。
選抜メンバーも若手中心になり、新時代の節目にリリースされたこの楽曲の歌詞やMVは、明確に「あの頃AKBが好きだったあなたへ」語りかけるものになっている。


自分たちを客観的に
振り返っちゃダメなんだ
どんな風に思われてもいい
もう一度
もう一度
君を誘いたい

あれっきり(あれっきり)
これっきり(これっきり)
そんなの悲しすぎるじゃない? 
どんなことあったとしても
僕は変わらないぜ

「もう一度君を誘いたい」と歌うこの曲の歌詞、あえて言うならばかなり未練がましい。しかしこの未練がましさが令和AKBの魅力――というと流石に語弊があるので、もう少し好意的な語彙で説明を試みる。

令和のAKB48の強みは、「かつて全国的な知名度と人気を博したAKB48というブランドと、それに見合う曲や歴史などのリソースを持っていること」と、「そのブランドに憧れて加入してきた"かつてのファン"がメンバーとなり、今や最前線で活躍していること」の2点にあると筆者は考えている。
ファンが求めるものを十分に知っているメンバーが潤沢なリソースを存分に使いながら引っ張っていくグループは、強い。

「サステナブル」はそんな令和AKBを象徴する楽曲だ。

僕のスマホに残ってた写真
微笑む去年の水着の二人

「ポニーテールとシュシュ」や「真夏のSounds Good !」の物語を継承しながら、当時10代半ばだったメンバーたちが、当時10代だったかつてのファンたちへ「私たちは変わってないよ」と誘う、誰かを振り向かせるための曲。

このスタンスが前提にあるからこそ、「根も葉もRumor」で提示された「ポニーテールとシュシュ」へのクリティカルなセルフカウンターは新鮮に映る。「根も葉もRumor」が語りかけるのは、あの頃のAKBを「素通りしていた」あなたである。

僕が知ってる君は前髪ぱっつんで
スカート翻しながらいつも走ってた
髪の色も変わっていくつ恋をしたの

「ルージュが似合う」「髪の色も変わって」といったフレーズから連想される自立した個性際立つ人物像は、今のメンバーたちのビジュアルや、個人YouTubeチャンネルなどで見せるいきいきとした自由な姿に重なる。それは、かつての、ポニーテールとシュシュで揃えた大人数型アイドルのステレオタイプとは対照的な姿である。
そして、そうしたアイドル像の転換が、"多様性"を掲げる時代の潮流を的確に捉えていることは言うまでもない。

感染症で活動が停止し、実に1年半振りとなった今回のリリースを契機として、AKB48は確実に新しい段階へと足を踏み入れた。そのステップアップのためには、過去の栄光を切って捨てることをも厭わない、そんな決意が現れているようにも感じられる。

ただの噂だろう
分かっていても気になるんだ

「振り向かせたい」という未練ではなく、「何となく気になってしまう」という"噂の持つ原動力"が、多くの人の耳目を惹きつけることを願ってやまない。


新しいAKB、何か良いらしい、ですよ……?


AKB48/根も葉もRumor


CD発売前のため、歌詞はこちらのnoteを参考にさせていただきました。

AKBファンの方はこちらの方の素敵な歌詞解釈もぜひ。


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