見出し画像

『チャリンチャリン太郎』(#毎週ショートショートnote)

近所に「さわさ りんたろう」という友達がいた。
家は小さな自転車屋を営んでいて、
父親がいつも真っ黒な手でパンク修理をしていた。

他に同い年がいなかったこともあり
学校から帰ると毎日ふたりで遊んでいたが、
しばらくして僕の両親は離婚し
母について遠くの町に引っ越した僕は
母が亡くなっても父の元へは帰らず、
その町で所帯を持った。

先日その父も亡くなり、荷物を整理するために
息子をつれて帰ってきていた。
息子が物置で見つけた僕の自転車に乗りたがったが
タイヤがぺしゃんこだった。
「あそこ、まだやってるかな?」
僕は息子といっしょに、りんたろうの家まで
行ってみることにした。

『さわさ自転車店』の看板が新しくなっていた。
パンク修理をしてくれたりんたろうが
息子を見て、昔の僕が訪ねてきたと驚いていた。
親父は引退したんだともらった名刺には
茶輪茶倫太郎と書かれている。
中学の頃はよく「チャリンチャリン太郎」って
からかわれたもんだよ、と懐かしそうに笑った。

(410文字)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?