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『最後の一発』

弾丸は俺の頬をかすめて背にした壁にめりこんだ。
くっくっくっ。
奴が楽しんでいるのが分かる。
俺は発射された弾の数を数えている。
さっき見たあの拳銃は薬室まで数えて7発装填できる。
あと2発。
もちろん途中で補給していなければの話だ。
撃たれた足をかばいながら壁伝いに奥へと進んでいく。
この暗闇では流れ出す血の跡を追って
俺の居場所を見つけ出すのは難しいだろう。
奴に犬並みの嗅覚があれば別だが。

額からは汗が流れ続けている。
傷ついた足は、いまや火のように熱くなっていて
冷たいコンクリートに押し付けると痛みが少し和らいだ。
その時、乾いた銃声が鳴り響いた。
俺の右肩に煙草の火を押し付けたような痛みが走る。
撃たれた。
俺はバランスを失いその場に倒れこんだ。
何かを掴むためにあげようとした右腕の感覚がない。
力がまったく入らず俺はそのまま床に叩きつけられた。
奴はこの暗闇の中どうやって俺の位置を掴んでいるんだ?
いっそのことこの心臓に撃ち込んでくれればいいのに。
そうすれば一瞬で済んでしまうのに。
俺は立ち上がる気力さえ持ち合わせていなかった。

突然目の前に小さな光が灯った。
それは奴が煙草に火をつけるために灯したライターの光だった。
辺りに奴の吸う煙草の匂いが漂う。
奴は音もなく、すぐ近くまで来ていたのだ。
くっくっくっ。
奴が笑っている。
その口からは鋭い牙が見え隠れしている。
背中には黒々とした翼が生えている。
奴はコウモリ男だったのだ。
なるほど、暗闇でも俺の居場所が分かるわけだ。

俺はうつ伏せのまま目を閉じた。
目を閉じていても銃口が俺に向けられているのが分かる。
最後の1発か、、、。
カチリ
撃鉄が起こされる。
一瞬の静寂ののち、最後の銃声が鳴り響き、
暗闇に悲鳴がこだました。

奴の発射した弾丸は見当違いの方向の壁で小さく火花を散らした。
奴は俺に向かって何度も引き金を引いたが
弾が込められていない拳銃は何の役にも立たなかった。
奴はまるで激しいダンスでもするように小刻みに痙攣していたが
少しずつ動きが遅くなり、やがて完全に止まった。
奴の背中には俺の尻から生えた尾の先の毒針が深く突き刺さっていた。
くっくっくっ。
今度は俺が笑う番だった。
そう、俺はサソリ男なのだ。

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