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『チャリンチャリン太郎(Another Ver.)』(#毎週ショートショートnote)

近所に「さわさ りんたろう」という友達がいた。
家は小さな自転車屋を営んでいて、
父親がいつも真っ黒な手でパンク修理をしていた。
他に同い年がいなかったこともあり
学校から帰ると毎日ふたりで遊んでいた。

ある日、りんたろうの家に行くと
僕の家のとなりに住むお姉さんがいた。
パンク魔が出たらしかったが、
僕の自転車は被害にあっていなかった。
りんたろうのお父さんが
「こっちも商売だから、半額だけもらおうかな」
と申し訳無さそうに言って、
お姉さんはお礼を言って帰っていった。

それからすぐに僕は遠くの町に引っ越し、
今日、数十年ぶりにりんたろうに会った。
父親は引退したけど元気だよ、と笑う。
昔話に花が咲き、パンク魔の話になった。
「近所の大学生だったんだけど。
俺、父親が犯人だと思ってて」
「で、父親は俺だと思ってたって」

帰りがけにもらった名刺で茶輪茶倫太郎と
書くのだと知った。
中学の頃はよく「チャリンチャリン太郎」って
からかわれたもんだよと笑った。

(410文字)


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