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『錦鯉釣る雲』(毎週ショートショートnote)

「珍しいね、錦鯉が釣りたいなんて。じゃあこっちの雲に乗って」
案内された雲は他のものよりもやや小ぶりで
私たちが乗り込むとすぐに他の雲とは違う方向に動き出した。

雲が風に乗ると船頭は、長い竿を器用に操っていた手を止めて
腰に下げた煙草入れから煙管を取り出し、
私たちに断ることなく火をつけてぷかりと煙を吐き出した。
「お客さん方、錦鯉を釣りたいんだってね」
「私たち夫婦が以前住んでいた家では
庭に掘った池で錦鯉を飼い可愛がっておりました。
それが突然こちらに来ることになってしまい、、、」
「錦鯉は人が観賞用に改良した品種で天然ものなんていない。
最初はどういうことかと思ったが、なるほど
そういうことでしたか」

やがて雲が夫婦が生前住んでいた家の真上まで来ると
船頭は雲を止め、ふたりに釣竿を渡した。
「錦鯉に負担がかからないように、かえしはつけてないからね」

その日、何匹もの錦鯉が雲に吸い込まれていくのを見た
という通報が後を絶たなかったという。

(410文字)

<あとがき>
今回は裏のお題で書かせていただきました。
錦鯉って普通釣らないものですよね。


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