『染み』
染みは壁のいたる所に存在する。
しかし、俺が探し求めているものはただひとつ、
悲しみに黒く染まるあの染みだけだ。
閉ざされた部屋の閉ざされた窓を開け放つと
血のように赤く染まる西日の差す壁につけられたその染みは
間違いなくあの日、俺がつけた染みだ。
彼女は俺に、俺が何者かを教えてくれた。
俺は彼女の欲するものを与え、
彼女は俺の望むものを気付かせてくれた。
だから俺はあの日、彼女の全てを奪うことを決めたんだ。
俺が望むものは彼女の全てだった。
そして彼女が欲するものは、、、。
彼女の欲するものを俺はこの手で与え、
そしてこの部屋に封印した。
忘れていた記憶が、あの日の空気とともに蘇る。
俺が何者かを彼女は教えてくれた。
彼女の記憶は壁の染みとなって今も消えずにここにある。
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