見出し画像

『立方体の思い出②』(毎週ショートショートnote)

中学生になるかならないかという頃、
周りの景色が普段と違って見えた時期がありました。
何もかもが小さな立方体で出来ているように見えていたんです。

お父さんも、お母さんも、友達も、学校の先生も、
ウチで飼っている犬のシロまでも。
それに生き物だけでなく、お母さんが庭で育てている花や
ご飯や給食に出される野菜や、サッカーボールまで
よぉく見ると小さな四角が集まって出来ているんです。
でも、他の人たちはそんな風に見えないようで、
まるで僕だけが偽物の世界に迷い込んでしまったように
感じていました。

ある日、朝起きるとノドの調子がおかしいことに気づきました。
声が出しづらく、ちょっとだけかすれた感じ。
ふと枕の横を見ると、小さな立方体の集まったものが
ひとかけら落ちていました。
どうやら僕の口から出たようで、手に取ったそれは
すぐに消えてしまいました。

僕の声が太くなる頃には、口から立方体が出ることはなくなり
周りの景色も普通に見えるようになりました。

(410文字)

<あとがき>
思春期という人生に一度きりのほんのわずかな時間。
なんだか見え方が少し違っていて、
大人になるにしたがいやがて見えなくなる世界。
そんなのを表現したかったのですが、、、。

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?