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『因果』

「自分の人生が産まれる前に既に決められていたと知ったら
お前どうする?」
友人が突然聞いてきた。
「なんだよ、なに突然へんなこと言い出すんだよ」
俺は笑って答えたが、彼は笑ってはいなかった。
「DNAってのは人間を形成している設計図のようなもの
って知ってるか?」
「あぁ、聞いたことあるな」
「自分がいつ何をするのか、そこにすべて書き込まれていたとすると?」
「俺たちは産まれてから死ぬまでのあいだ、自分の意志ではなく
予め決められたことをやっているということか?」
「そうだ」
「それはおかしいだろ。
だって人はひとりで生きてる訳じゃないんだぜ。
いくらなんでも他の人との関わりまでは決められないだろ」
「それは、個々にプログラムが与えられている、と考えた場合だろ?
俺も最初はそう思ったさ、でもな、こう考えてみな。
人類すべてが大きなネットワークのようなもので、
それぞれの関わりまでもがプログラミングされているんだ。
人と人との出会いや別れまでもね」
「それって、人だけか?」
「いや、もしかすると、生き物全てがそのネットワークに
組み込まれているのかもよ。
ペットと飼い主の関係も、すでに決められているんだ」

もちろん、笑い飛ばすことも出来た。
しかし、運命の出会い、偶然とは思えない偶然、
因果関係がないなんて、誰が言い切れる?
俺は笑うことが出来なかった。
その代わりに新たな疑問を彼に投げかける。
「じゃあ聞くが、そのプログラムは誰が何の目的で入力してるんだ?」
彼はぶっきらぼうに言った。
「それがわかりゃ苦労しねぇよ。
俺は学者でもなけりゃ宗教家でもないんだからさ。
ま、このやりとりも最初から決められていたんだろな。
答が最後まで出ない意味のないやりとりさ」

俺はなんだか恐ろしくなってきた。
「そうするとだな、、、」
俺は恐る恐る彼に聞いた。
「俺がさっき犬のクソを踏んでしまったのは偶然ではなくて
産まれる前から既に決められていて、避けられなかったってことか?
その犬が今日、この場所でクソをすることが決められていて
俺がこの場所でそのクソを踏むことが決められていた、と」
彼は間髪入れずに言い放った。

「いや、それはお前がドジだからだよ」

高らかに笑う彼の背中に、犬のクソのついたこの靴で
蹴りをいれてやりたくなった。

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