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【新国立劇場 初台アート・ロフト】 『針と糸で繋ぐ未来への扉』展 WEBギャラリーツアー①


「アートはいつもあなたの中にある。」

新国立劇場のギャラリースペースである公開空地で開催中の「新国立劇場 初台アート・ロフト」。空間をアートとしてクリエーションすると同時に、貴重な舞台芸術を文化資産として修繕・保存することにも力を入れています。

「新国立劇場 初台アート・ロフト」は、時空を超えた人生の旅を構想する屋根裏部屋

前回までは「初台アート・ロフト」の概要や、展示に使われているマネキン制作の手仕事の様子をご覧いただきました。いよいよ今回からは現在開催中の『針と糸で繋ぐ未来への扉』展の衣裳をご紹介していきます。各ブースの展示空間や衣裳のみどころと合わせて、5階情報センターで体験でき【初台アート・ロフト「みる」「よむ」】から展示衣裳の演目や作曲家にちなんだ書籍や映像作品にも触れています。

先ずは、劇場のオープンスペース をゆっくりと散策できる”おすすめのルート”からご紹介いたします。(全4回)
それでは、一緒に展示をみていきましょう!

第1回は、【1階・2階】の展示から。

正面玄関を入ると、すぐに最初の展示が皆さんをお出迎えします。

①『ローエングリン』(2012年初演) 合唱

美術・衣裳デザイン:ロザリエ
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー
演出:マティアス・フォン・シュテークマン
衣裳製作:レナーテ・シュトイバー工房

ウエルカムスペースのため、敷居を感じさせないシームレスな展示空間
ウエットスーツの生地にミシンの縫い目で模様を描いている。厚みがある素材では、ぼやけたシルエットになりやすいが、この模様があることでメリハリがつき、シャープに見える
躍動感のあるねじれたリボンを組み合わせたヘッドドレスも同じ素材で作られている

■5階情報センターで「よむ」

ワグネリアンの憧れ、バイロイト祝祭劇場

「Das Richard Wagner Festspielhaus Bayreuth / The Richard Wagner Festival Theatre Bayreuth」
著:Markus Kiesel
ワーグナーが作品を理想的な環境で上演するために計画、設計し、完成させたバイロイト祝祭劇場。建物も壁も床も椅子も全て木でできており、きらびやかなシャンデリアも彫刻も一切なく、とにかく音響重視のこの劇場。いつかそこで観る作品に思いを馳せながらページをめくる楽しみがあります。


それでは、次の展示に向かいましょう。
そのまま進むと、大きく目を引く赤いマントが登場します。

②『エレクトラ』(2004年初演)クリテムネストラ、クリソテミスの大マント

装置・衣裳デザイン:オラフ・ツォンベック
作曲:リヒャルト・シュトラウス
演出:ハンス=ペーター・レーマン
衣裳製作:工房いーち

手仕事で作り上げられた2枚の大きなマント。
衣裳から感じるエネルギーを、地球のパワーの源であるマグマ(火山)とリンクさせて、
ダイナミックに溢れ出す力強さを表現している。
個性のある生地の組み合わせのバランスが素晴らしく、コードやビーズは立体感をなくさないため、全て手作業で縫いつけられている。マントの大きさからすると気の遠くなる作業に違いないが
見事な造形に仕上がっている。

■5階情報センターで「よむ」

充実の内容と、美しい写真でシュトラウスのオペラを紐解く

リヒャルト・シュトラウスのオペラ」
著:ウイリアム・マン 訳:原田茂生
シュトラウス音楽の最も重要な分野である、『サロメ』や『エレクトラ』ほか、オペラの全15作品を題材に音楽とドラマや役割との関連を精緻に分析。現代の上演写真や、初演時のスケッチなどもカラーで多数収録。本書オリジナルの英語版の絶版後、日本リヒャルト・シュトラウス協会の中心メンバーにより企画された日本版。


階段をもう少し上がっていくと、鏡に囲まれたステージに佇む美しいドレスの女性の姿が見えてきます。

③『ローエングリン』(1997年初演) エルザ

 本プロダクションは、新国立劇場開場記念公演として上演されました。

衣裳デザイン:ヨルゲ・ヤーラ
台本・作曲:リヒャルト・ワーグナー
演出:ヴォルフガング・ワーグナー
衣裳製作:ハイケ・アマー/レナーテ・シュトイバー/東京衣裳

どこから見ても美しい彼女が見えるように鏡に映る姿が左右対称になるように配置されている。
それに対してイギリス庭園風の装飾は左右非対称となっており、目に楽しい。
淡い色合いだとぼんやりとした印象になりがちだが、ローブの縁を金色でパイピングすることによって、アクセントを持たせている。動いた時に見える裏地との色彩バランスが素晴らしい。
1997年の上演時に着用していた衣裳を美しいまま目にすることができる

■5階情報センターで「みる」

公演写真

『ローエングリン』(1997年新国立劇場開場記念公演)
演出:ヴォルフガング・ワーグナー

このコーナーで見ていただくエルザは、1997年、新国立劇場開場記念公演で上演されたときの衣裳です。新国立劇場では演出が異なる2つの『ローエングリン』が上演されています。同じ演目であっても、演出コンセプトや衣裳デザインの違いによって、それぞれの世界が創造されます。ぜひ実際に2つの展示を見比べてみてください。

※マティアス・フォン・シュテークマン演出の『ローエングリン』(2012年初演)の衣裳は、1階の合唱衣裳の他、主要キャストの衣裳が3階東ギャラリーに展示されています。


●BREAK TIME① 鏡のギャラリー脇のベンチでゆっくり鑑賞

いったん散策の足を休めて、エルザの展示脇にあるベンチに座り、劇場のオープンスペースをゆっくり鑑賞してみましょう。今展示の装飾モチーフである、ストレッチ生地で縫製された花と蔦は空間全体にエッジを効かせています。その花と蔦に飾られたベンチからは、向かい側の3階ギャラリーを見上げるような形で鑑賞できます。新たな生命を吹き込まれた舞台衣裳とキャラクター。それらが醸し出す凛として静謐な空気感を楽しめる一押しのコーナーです。

観劇前の時間を過ごすのもおすすめ
昼は天井から差し込む日の光が、夜は壁の影までもが舞台演出のようです。


さあ、それでは再びギャラリーツアーに戻りましょう!
エルザの脇の階段を昇りきり、中劇場のクローク前まで進んでいきます。

大きな木の柱の前を右へ
こちらのスロープをまっすぐ進む
1つめの角を右に行くと、2人のバレリーナがお出迎え。そのまま奥へと進みましょう。


長いブリッジの先には、大きな吹き抜けのギャラリーが広がります。
こちらは、今展の目玉のひとつでもある大型展示になります。

④こどものためのオペラ劇場『ジークフリートの冒険』(2004年初演) ジークフリート/ブリュンヒルデ/ファフナー/ラインの娘・ワルキューレ

衣裳デザイン:ひびのこづえ
作曲(原作):リヒャルト・ワーグナー
演出:マティアス・フォン・シュテークマン
衣裳制作:工房いーち
小道具制作:ザ・スタッフ

ブリッジを渡っている時には、主人公のふたりの結婚式を切り取ったシーンだけが見えるが、
渡り切った先には、頭上にライン川を泳ぐワルキューレが戯れ、多くの登場人物が集う光あふれる賑やかな空間となっている。
ジークフリート、ブリュンヒルデの羽は手描きで描かれている。線の柔らかさから手仕事の温かみが感じられる。
王冠は小枝を集めて作られていて、遊び心が感じられる。
ジークフリートの衣裳は合皮素材にハトメで穴を開けている。見た目のアクセントだけではなく、通気性の悪い生地にこうした施しをすることで、衣裳の着心地のよさにもつながっている。
ファフナーのジャケットは、プラスチック容器で装飾がされている。身近なものが衣裳の一部になってしまう驚きのアイデア。


■5階情報センターで「よむ」

ウイーン国立歌劇場で上演された時のファフナーの後ろ姿が目を引く表紙

新国立劇場で初演された後、こどものためのオペラ劇場『ジークフリートの冒険』は、ウイーン国立歌劇場の屋上テントで上演されました。衣裳のデザイン原画から、上演初日のカーテンコールまでの制作過程を記録したビジュアルブック。ひびのこづえデザインの衣裳も現地スタッフの手により、新たに制作されました。


■次回予告

今回はここまで。
次回は2階ギャラリー奥にある階段を昇り、3階のギャラリーへと進みます。どうぞお楽しみに!

まるで隠し階段のようなこちらを昇ると、3階ギャラリーへ。
ここからは次回にお届けします!

■劇場までのアクセス




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