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津原泰水「五色の舟」読了

全文無料公開から既に三年、著書の早すぎる逝去からももう半年以上経ち、遅きに失した感は拭えないものの、遅すぎたを言い訳に手をつけないのはそれこそ大悪手と、noteにてその名を再度見かけたのを期に一気に読んだ。

SFというより幻想小説の手触り。

巧緻なギミックや伏線回収の手数ではなく、かといってネタバレで面白さの激減するプロット原理主義とも一線を画す、シンプルな構成の上に紡ぎ出される叙情と着地の美しさに只々酔い痴れる。


読んでいて思い出したのが、前に深夜ラジオで伊集院光が伏線回収に徹したテクニカルな作品を「スゴいのは判るけど、だから何?」「そういうのを望んで小説を読んでるわけじゃない」と言っていたこと。

むしろ小説とは、プロットやストーリーを肉づけするディテールの集まりであって、そこを疎かにしてはいけないのだ。

その意味でも、本作が2014年発表の『SFマガジン』700号記念「オールタイムベストSF」で国内短篇部門1位に選出された意義は途轍もなく大きい。


以下、【「五色の舟」全文公開に際して】と題された著書自身のコメントより抜粋。
"残酷で退屈な「こちら側」でのご退屈しのぎが、いまそこに居られるはずだった「むこう側」のあなた、そしてその思い描くところの凛々しい「こちら側」のあなたへと、輝かしい反射を重ねてくれますならば、かつての僕はこの小説をものした甲斐がありました"



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