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◎あなたも生きてた日の日記㉞最も恥ずかしいケガを教えて


「今までの人生で一番恥ずかしかったケガって何?」

ある日友人たちと話していた際に、ひょんなことからそんな話題になった。すると出るわ出るわ、友人たちが口々に自分の過去のケガについて話し始めた。

小学生の頃、大流行していたローラースケートで転び、腕の骨を折った話。鉄棒で手を滑らせて地面に落下、尾てい骨を強打してしばらく歩けなかった話。飛び降りたブランコを止めようとして前に回ったところ、揺れているブランコがそのまま顔に激突し前歯を折った話。階段の何段目から飛び降りることができるか競っていた時に、七段目から飛び降りてそのまま足の骨を折った話…。

ものすごく痛そうではあるものの、いかにも子ども時代らしいケガの数々に、思わず笑いが起きる。

「うわ~バカだ~」「病院の先生に説明するのめちゃくちゃ恥ずかしかったなあ」「いや当時は本当に笑えないぐらい痛かったよ」「わかる」「でも、こういうケガってなんで武勇伝みたいに話しちゃうんだろうね」

笑いながら、まだ話していない一人にも尋ねてみる。
彼女は迷いなくはっきりと答えた。

「私はね、突き指」。

突き指…?
それまでに出たケガと比べると地味な例の出現に、「?」が浮かぶ。

「突き指って、ドッジボールとかでやる、あれ?」
「そうそう」
「体育の授業中とかにケガしたの?」
「それがさ、違うんだよ。掃除の時間にやったの」
「え?」
「掃除の時間に突き指して、大変なことになったの」

彼女の話はこうだった。

「掃除の時間に、『机を運ぶ係』になったのね。ほら、掃き掃除の時って、一旦机を教室の後ろに寄せるじゃん?それを元の位置に戻す係でさ。その時に、なんか給食の後でぼーっとしてたのかな、『運ばなきゃ』と思って、机を引っ張ろうと思って手を出したら、なんか距離感見誤って、すごい勢いで机の方に手を出しちゃってね、コンッ!って。机に、かなりの速さで指を突いちゃって…」

その痛みは、しばらくその場から動けない程だったらしい。机に突かれた中指はみるみる赤くなり、腫れあがった。

「でも保健室には行かなかったんだよね」

どうして!?と言うと、彼女は少し恥ずかしそうに答えた。

「当時は、『突き指』っていうのはスポーツやってる人の特権みたいだったから…」

聞くと、当時学校内でドッジボールが大流行していて、突き指をする児童が一定数いた。特に男子の中では、「突き指をした」というのが一種のステータスのようになっていて、シップを撒いた指を「痛いなあ」と言いながら他人に見せたり、遊びに誘われた時に「いま俺突き指してるから、パス」と言って断ったりするのがなぜか『カッコいいこと』になっていたという。

「だから、指がどんどん腫れてるのを見て『あ~これたぶん突き指だなあ』とは思ってたんだけど、スポーツやってない私が、しかも掃除の時間に突き指したってなったら、絶対だめだと思って」

結局そのまま保健室には行かなかったらしい。初期治療が遅れたからなのか、指は数か月たっても傷み続けたそうだ。

「その時も恥ずかしかったけど、今考えると『なんでそんなこと考えてたんだ…』って二倍恥ずかしいケガだわ、これ」

彼女はそう言って笑っていた。
その後、気になって「突き指」というケガについて少し調べてみた。なんとなく「突き指」と言うと大したことない、放っておいたら治る、というイメージを持っていたのだけれど、調べてみると案外そうでもないらしい。

ありふれたケガで、誰でも一度くらいは経験したことのある外傷でありながら、酷い時は脱臼や骨折を起こす場合もあるそうだ。突き指を放置したままにすると、中には指が曲がってしまう場合もあると言う。

調べながら、指の先が少し傷んでくるような気がした。
彼女の場合は数か月後に治ったようだけど、全然笑い事ではないケガだった。そう考えて、先に出た色々なケガの例を思い返してみる。「最も恥ずかしい」などと言って笑っていたけれど、私たちは案外ぎりぎりの危ない体験をしていたのかもしれない。

(あなたも生きてた日の日記㉞ 身体感覚について④)