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ドラマトーク#4 「アイドルに見えない」役者たち

今月から始まったNHKの朝ドラこと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

通常なら半年かけて一人の主人公の半生を描くのが朝ドラだが、異例の今作は3人のヒロインがバトンをつなぐ3世代100年の物語となっている。
現在は3週目を放送中で、第二次大戦中の岡山を舞台に一人目のヒロイン・安子(上白石萌音)の物語が展開中であるが、その安子の愛くるしいキャラクターもさることながら、彼女とともに連日朝ドラらしからぬキュンキュンな純愛模様を見せる恋のお相手「稔さん」役の松村北斗にも注目が集まっている。

稔は地元の名家の跡取り息子で、英語が堪能な大学生。
役の設定だけでも絵に描いたような好青年だが、松村が、まるで本当に昭和の時代から飛び出してきたような、爽やかさと気品あふれる純和風のイケメンに仕上がっていて、役にピッタリすぎると評判なのだ。

実は松村は、昨年CDデビューしたジャニーズ事務所のグループ・SixTONESに所属するアイドルなのだが、今回の朝ドラで初めて彼のことを知ったという視聴者も多く、さらにその自然な演技と完璧な昭和感から、「ジャニーズだと思わなかった」「アイドルぽくない」などの声もネットを中心に多く上がっている様子。

アイドルと役者業の今昔

アイドルが役者業もする。
これは昔からいろいろと議論があったり、これまでのアイドルの中には、本人もその葛藤を語っていたりと、アイドルにはつき物の、簡単に答えの出ないテーマだと思うが、最近特に、アイドルとして認知されていないまま、あるいはされる前に役者として世に出るアイドル(特にジャニーズ)が増えているように思う。

昔の、歌番組が全盛期でアイドルが歌ったり踊ったりに特化していた時代から、曲を披露するだけでなく演技やバラエティとマルチに活躍するスタイルに移行していった90年代後半にかけてまでは、まずはアイドルとしてある程度認知され、人気が出てきたところでドラマ出演という流れが多かった。

ちなみにSMAPTOKIOV6あたりまではCDデビューが先行する形だったが、以降のKinKi Kidsタッキー&翼らのメンバーの多くは、CDデビュー前のジャニーズJr時代からアイドルとしての知名度と人気を博していた。

デビュー前・後のいずれにしても、この時代のアイドルのドラマ出演はいきなり主役だったり、アイドルとしての人気にあやかった扱いであることが多く、たとえ演技の実力があったとしても、その正当な評価は二の次になっていたのではないだろうか。
もちろんそんな中でも、嵐の二宮和也など、演技力が高く評価されるアイドルもぽつぽつとは出ていた。

その後、アイドルは演技を含めたマルチな活動をするのが当たり前となる中、今度は逆に、CDデビューをせずに本格的に俳優業専門で行く、風間俊介生田斗真と言った異色のジャニーズアイドルが現れる。
彼らは、ジャニーズJrだった間に出演したドラマをきっかけに演技力が評価され、CDデビューやグループの本格結成の前に、その地位を確立してしまったパターンだと言える。
その第一人者とも言える風間は特に、その雰囲気や個性からしても「アイドルに見えない」役者の代表格だろう。

アイドル飽和状態から生まれる「アイドルに見えない」役者

冒頭に挙げた松村のパターンは、この風間・生田らともまた違う。
近年では、男性アイドルの寿命が長くなってグループ数が頭打ち状態になるとともに、ジャニーズ事務所の抱えるデビュー前のいわゆるジャニーズJrの数が飽和状態とも言われる中、必然的にCDデビューまでの下積み期間が長くなった。

ここ数年でデビューした若手のジャニーズグループの中には、10年以上ジャニーズJrとして下積みを経ているメンバーもざらにいて、その間に演技の経験を多く積んでいることも多い。
事務所主催の舞台や、いわゆるジャニーズ枠と言われるジャニーズJrが多く出演する深夜ドラマ、あるいは先輩アイドルの主演作など、経験を積む機会に恵まれていることもあるとは思うが、そこから外部の舞台などや、内輪やバーターではないであろうキャスティングでドラマに出演していく人も少なくない。

実際、デビュー前の松村も、古くは『黒の女教師』(2012年・TBS系)で生徒役のメインどころに抜擢されている。
その後もドラマ出演を重ね、メインキャストとして『パーフェクトワールド』(2019年・関テレ/フジ系)や、デビュー直後の昨年には『10の秘密』(関テレ/フジ系)『一億円のさようなら』(NHK)と立て続けに出演。
このときも、演技力のあるイケメン、という認知はされていて、一部にはそれがジャニーズのタレントだということにたどり着いている視聴者もいたが、今回の朝ドラほどの影響力ではなかった。

今年に入ると『レッドアイズ 監視捜査班』(日テレ系)でも主要キャストの一人だったが、そのさっぱりした顔つきのせいもあるのか、松村が「以前のあの役と、同じ人だと思わなかった」と言われているのをよく見る。
今回の朝ドラでも、『パーフェクトワールド』や『レッドアイズ』での松村の役は観ていたが、それが「稔さん」と同一人物だとすぐには気づかなかった視聴者がけっこういたようだ。
だが、役によってまったく雰囲気が違う、それこそが、評価される役者としての重要な要素の一つでもあるわけで、松村は、役者業をしている若手ジャニーズの中でも、頭一つ抜きん出た存在であると私は思っている。

注目したい「アイドルに見えない」役者たち

松村以外では、まずは前作の朝ドラ『おかえりモネ』に出演し話題となっていたKing & Prince永瀬廉
やはり、初見の視聴者には登場当初「アイドルだと思わなかった」と評されていて、苦悩を抱える漁師役を繊細な演技で表現していた。
まだキンプリをよく知らなかった頃の私も、『俺のスカート、どこ行った?』(2019年・日テレ系)の闇を抱える高校生・明智秀一役で初めて彼を見かけたとき、イケメンだけれど陰湿なその雰囲気に、まさかジャニーズではないだろうと思い込んでいたことがある。
昨年主演した映画『弱虫ペダル』でもアニメオタクの高校生役を熱演していて、キラキラしたアイドル姿とのギャップに驚かされることが多く、今後が楽しみな一人だ。

また、つい先日CDデビューを果たしたばかりのなにわ男子西畑大吾は、すでに『ごちそうさん』(2013年度後期)と『あさが来た』(2015年度後期)の二度にわたってNHKの朝ドラに出演している。
デビュー前のJrだったことに加え、『ごちそうさん』では戦時中の若者の役ということで丸刈り姿だったのもあり、やはり視聴者からはジャニーズだという認識は薄かったが、その演技力は高く評価された。
今までは関西ジャニーズJrとして大阪を拠点に活動していたため、全国的な露出は限られていたが、デビューした今後は、ドラマ等の出演も増えるのではないかと期待している。

デビュー前のジャニーズJrの中にも注目株はいる。
西畑と同じく関西ジャニーズJrとして活動し、Jr内ユニット・Aぇ!groupのメンバーである正門良規は、現在放送中の『和田家の男たち』(テレ朝系・金曜23時)に出演中だが、おそらく、多くの視聴者は「え? 相葉くん以外にジャニーズの人でてるの?」という感じだろう。
主演の相葉雅紀の大学時代の後輩で、職を失った相葉に自分の職場を紹介するネットニュース記者・三ツ村役で出ているのが正門だ。

永瀬、西畑と同じ2011年にジャニーズ事務所に入所した正門は、2019年の朝ドラ『スカーレット』にもヒロインの妹の夫役で出演していたが、どの役でも自然な演技で物語の中にすっと溶け込んでいて、それでいて観ている側に役の印象を残すような演じ方をする役者だと思う。
私の中では最近の「アイドルに見えない」役者の筆頭である。

さらに若手で言うと、こちらも現在放送中の『二月の勝者-絶対合格の教室-』(日テレ系・土曜21時)に出演しているジャニーズJrの羽村仁成がいる。
まだ14歳で『二月の勝者』では小学6年の受験生役を演じている彼だが、今年1月期の『俺の家の話』(TBS系)で主演の長瀬智也の息子役を演じていたと言えば、思い当たる人もいるかもしれない。

実は羽村の場合は、2019年にジャニーズ事務所へ入所する以前に6年ほど子役として活動しており、その間のドラマ出演の経験も多い。
最近のジャニーズJrには、そういった子役経験者の入所もふえているようで、羽村が今後グループに所属してキラキラしたアイドルとなっていくのか、はたまた風間や生田のような俳優業専門ジャニーズの道を進むのかはまだ未知であるが、素朴な見た目としっかりとした演技で「アイドルに見えない」役者の素養が備わっているように思え、今後を注目したいと思う一人と言える。

こうして見てみると、実は層が厚いかもしれない「アイドルに見えない」役者陣。
今後の彼らの活躍と、彼らに続くさらなる逸材の登場、どちらにも期待がかかるのである。

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