杞憂 【聖なる炎の中で私は死んだ】

 世界中の人たちがみんな死んだ。
彼らは私たちに殺されたと糾弾している。
重ならない旗の下で暮らす愛する人だけが唯一の救いだった。
そんな彼も隣人の罪なき恐怖の刃に倒れ、この世を
去った。
私は絶望した。
彼らの言う『私たちがしてきたこと』とは
一体どこから出回った真実なのだろうか?
極端に発達した情報科学と医学、
魑魅魍魎の権謀術数に踊らされ
その責任は私たちにあると彼らは叫んだ。
罪のない人たちまで巻き込んで......

「すべては平和のためである。」と、
私たちは彼らの言う『聖なる炎』に包まれて消えた。
燻っていた疑心暗鬼の香りが濃厚になり始めた。
私たちを葬り去ったあの『聖なる炎』は一体何を
浄化したのだろうか?
天の存在となって今でも私は見守っている。
私は私たちの罪を自覚するけれど、
あの『炎』は決して何も浄化してなんかない。
焼き払った対象を誤り、引火性のある黒い香りに
火がついた。
その『炎』であなたたちは一体何を救えると言うの?
愛する人と隣で私は今でもあなたたちを見守る。

私に眠る『杞の国』の血がまた余計な心配をしているだけなら良いのだけれど......





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