正欲 朝井リョウ著
突然ですが、私は人にはほとんど言っていない趣向があります。あ、別に人以外の何かではないです。どうやら頬骨が少し張ってる人が本能的に好みのようです。自分のことなのに「ようです」?と思うじゃないですが、でも実際よく分からないトリガーが働いてまして「よく分からないけど傾向を調べたら頬骨がはってる人だった」ということです。
さて、この話を聞いて「なんだ、ちょっと変わってるけど好みの話か」と思った人はいるでしょう。僕のことを知る人、会ったことある人は「良かった」とホッとした人もいるかもしれません。それこそが、今作朝井リョウの思う「正欲」なのだと思います。
頬骨が張っている人が好き。がなぜ安心するのか。恐らく理由は3つあって、ひとつはショートカットが好き、二重が好きみたいな割と一般的で味方が多く、胸や足といった性的な連想をされることが少ないという点。もう1つは小児生愛などのようにその要望を爆発させたら犯罪になふような趣向ではない点だと思います。あと1つはそれこそ私自身が女性が好きな男性という正欲だからかもしれません。
だがしかし、もしも私が頬骨を見る度に快感を覚えていたり、頬骨が見たいがためにマスクを剥ぎ取ろうとする行為をしたら異常性欲者として世間から虐げられるでしょう。そうしたら多分何かしらの更生施設にぶち込まれます。
ただもし、お店のマスクを全部盗んでしまえば頬骨が見れる。なんていう考えに及んで窃盗をしたらどう思われるか。コロナ禍であればおそらく「転売ヤー」として扱われ、更生施設も窃盗を起こさないように、という施設(そんなものあるか知らないけど)に移されるのでしょう。
そう、それくらい世の中には趣向が異なってる人がいるんだろうけど、それを一般的な価値観(正欲)が自己満のために苦しめてるよねっていう朝井リョウ特有の「共感させてたたき落とす」作品
さて、長くなりましたが内容について。
物語の冒頭で3人の男が逮捕されます。その3人は所謂ショタ属性ゆえに及んだもの。でもそこに至るまでには、様々な要因があり、様々な苦悩がある。その苦悩を綴っていく中で、読者の心がズタズタにされていきます。
1つ例を取りましょう。不登校の小学生が、ゆた○ん的なYouTuberに感化され、自らもYouTubeチャンネルをやります。しかし、未成年のチャンネルということもありコメント欄がガイドラインに抵触してBANされます。当然、理由としては未成年の水着だのなんなら3歳児とかの肌着姿などに性的欲求を増幅させた人がいて、その影響があったのです。ですが、それって本当に適切な対応なの?という疑問が生まれてるわけです。極論、犯罪を犯してる訳ではないでしょ?という。こんなこと書くと私が普段からそんなこと考えてると思われちゃいますが、結局のところその否定って「気持ち悪いから」なんですよね。で、本作はさらに突っ込んでて。実は小学生とか関係なく別の趣向の持ち主が犯人の中にいるんです。でも、逮捕されません。理由は自らの興奮に留めていて犯罪を犯していないから。でも、チャンネルがBANされることで、その趣向を満足する術がなくなりました。そうなると、暴走という手段をとる可能性は大いに考えられるよね。ということ。今回は実際に犯罪が結びつくので、まあまあと思う気持ちもあります。ですが、例えばグラビアが悪影響だから規制。とかも別に犯罪沙汰じゃないのにありえる話ですよね(今この感想書いてる時にはすげえタイムリー)。なので、良かれと思ってやってることって、実はそうでもない部分は沢山あるんだよってこと。
あと、こんなアンチテーゼも。
趣向がマイノリティーな人は孤立している。だから繋がりを持たせてあげよう。なんて考えるお節介もありますよね。でも、それをやっちゃうと、本来は自分の網膜に焼き付けてればよいものを、他人と繋がったがために共有したくなる。故に、盗撮だのなんだのが発生する。なんてこともあるわけです。でも当の本人は正しいことをしたなんて思ってるわけです。(これも「正欲」)
だからほんと、余計なことしない方がいいわなと思います。
朝井リョウ作品はこういった、多くの人が心に持つであろう善意とか趣向を言語化して、それを逆撫でする力がずば抜けている。スカッとする反面、メンタルが落ちる。なんなら自分はどっちなんだろうと壊れてくる。そんな感じがしてきます。でもどことなく、こういう生欲を撒き散らすのも嫌う「正欲」を持つ人もいるわけですよね。だからやめられない。朝井リョウ作品を欲するのだと思います。村上春樹が好き、東野圭吾が好きとは違い、「朝井リョウが好き」は相当な変わり者でない限りはいないでしょう。私も自他ともに認める変わり者ですが。。。
理不尽に怒られたり、納得がいかない事象が自分に降り注いだら朝井リョウを読むことをオススメします。この人は自分とタメとは思えないくらい人生を達観して言語化してる。
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