マガジンのカバー画像

小説

3
運営しているクリエイター

#小説

そして溺死する

そして溺死する

 外を見てみると、紫陽花がそこら中で咲いていることを知る。紫陽花の青紫は鮮やかすぎてどうも好きにはなれなかった。青紫だけでなく、赤でもなんでも、私の脳と紫陽花の鮮やかな色は相性が悪いらしく、目を閉じても浮かぶ紫陽花の鮮やかな残像が、元からまとまりにくい思考を更にかき乱していくのだ。かき乱すだけかき乱して、そのまんま、残像は薄れて空しさだけを残す。その感覚が嫌いだった。
 像を残させるより前に素早く

もっとみる

月の独白

 私が陰の方から出てくると、いろいろな人が表情を和らげます。いつもは気難しい顔をしているお爺さんも、難しい顔をして勉強に励む受験生も、仕事に疲れて溜め息を吐くサラリーマンも、滅多に笑顔を見せてくれなくなった反抗期の女の子も、私を見るとどこかほっとしたような顔になります。
 私の名前は月といいます。
 私はいつも空の上の方からいろいろな人を見ています。たくさんの人を見ています。見守っています。照らし

もっとみる
クラゲの話

クラゲの話

 皆様はクラゲがどうして今の姿になったのかご存知でしょうか。進化のため、だとか、その姿でいるのが適しているため、だとか、そんな現実的なことではございません。これにはちょっとしたお話があるのでございます。それを今日、皆々様にお話させて頂きたく思います。



 クラゲは昔、昔、骨“あり”でございました。
 今では想像することもできないでしょうけれど、その姿はなんとも逞しく、凛々しく、また性格の方も

もっとみる