月の独白
私が陰の方から出てくると、いろいろな人が表情を和らげます。いつもは気難しい顔をしているお爺さんも、難しい顔をして勉強に励む受験生も、仕事に疲れて溜め息を吐くサラリーマンも、滅多に笑顔を見せてくれなくなった反抗期の女の子も、私を見るとどこかほっとしたような顔になります。
私の名前は月といいます。
私はいつも空の上の方からいろいろな人を見ています。たくさんの人を見ています。見守っています。照らしています。今日は、昨日口喧嘩をしていた老夫婦が仲直りをしたのか、仲良さげに話しながら私を見上げているのが見えました。
それから、眼鏡をかけた賢そうな男の子が頬を赤らめながら、これまた眼鏡をかけた賢そうな女の子にこんなことを言っていました。「月が綺麗ですね」それを聞いた女の子は男の子を見て、私を見て、言ったんです。「私も、そう思う」その後二人は手を繋いで歩いていきました。とても、とても、幸せそうでした。
そんな私にもたくさんの仲間がいます。それは、細かい光を放つ星たちのことです。星たちは私よりも一足遅く顔を出してきて、私の横や、頭上、足元なんかに来て私とお話をして下さいます。
「お月様、どうかな、そこから見る景色は」
「ええ、今日も素敵です。人間の皆様は幸せそうで、いつも笑顔にさせられますね」
「そうかいそうかい。ああ、では、昨日の老夫婦は」
「ええ、仲直りしてらっしゃいましたよ」
「それは良かった。あそこの爺さんはどうやら頑固者のようだから、心配していたんだ」
星はそう言って朗らかに笑います。星たちはみんな優しいのです。私と同じようにいろいろな人を見て、見守って、照らして、心配して……。そんな風にその日の終わりを、星たちは夜の吐息をゆっくりとその身に染み込ませながらそこから去っていきます。私も、勿論同じように去っていきます。太陽さんが来たのを確認して、ゆっくりとゆっくりと別のほうへと移動します。そこでまた、いろいろな人を見ているのです。今日のあの方の具合はどうかしら、今日はあの子眠れたかしら、などと考えながら、見ているのです。
私たちは見ています。幸せそうに息をするたくさんの人を。また、同じように、苦しそうに涙を零す人たちも。同じように見守って、心配して、その頬を優しく撫でながら、また来るよなんて声をかけて。それらはどれもこれも優しい愛からの行動です。皆様に平等に与えていかれる愛です。私は皆様を愛しているのです。
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私の名前は月といいます。
私はいつも空の上の方からいろいろな人を見ています。たくさんの人を見ています。見守っています。照らしています。愛しています。
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