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高木 明日香/株式会社たかき

法人名/農園名:株式会社たかき
農園所在地:熊本県八代市
就農年数:10年
生産品目:水稲「球磨川急流米」「ヒノヒカリ」、スイートコーン、オクラ、ジャガイモ、トウガラシ、カリフラワー、キャベツ、ブロッコリー、白菜などの露地野菜、バナナ                
HP:https://www.takaki-komekoubou.com/
X(Twitter):https://twitter.com/Takaki_BANANANA

no.228

バナナが熊本県八代市の新たな特産になったら面白いなあ・・・

■プロフィール

 江戸時代(1824・文政7年)から続く農家の7代目として、1991年に生まれる。東海大学第二高校(現東海大星翔高校)卒業後、東海大学農学部(阿蘇キャンパス)に進学して、作物学を専攻。

 2014年の卒業後、父が経営する「株式会社たかき」に入社、その年に農薬を取り扱い、販売できる「毒物劇物取扱責任者」の資格を取得。その後に「農産物検査員」の資格も取得する。

 2017年結婚。父が購入した農地にハウスがあったことから、父の知り合いから譲り受けた苗を植えてバナナ栽培に着手。

 1年目、2年目と立て続けに失敗するも、品種を見直したり、加温施設などを導入して温度管理を改善するなど試行錯誤を繰り返した結果、2022年に初めて満足できる品質のバナナを収穫。

「三尺バナナ」と呼ばれる小さめのサイズで、「たかきのバナナ」として売り出したところ、熊本産の珍しいバナナとしてメディアなどから注目されるようになる。産直サイトのほか、ふるさと納税の返礼品としても人気になっている。また、バナナの木のオーナー制度も始め、全国に確実にファンが増えている。

■農業を職業にした理由

〜農家の娘として育ち、自然に就農〜
 江戸時代から続く農家に生まれ、子供の頃から農業を見ていたため、いずれは自分も家業を継ぐものだと自然に考えるようになった。高校卒業後は阿蘇にある東海大学農学部に進学し、自然農法に詳しい教授のもとで水稲を中心に学ぶ。

 大学を卒業した2014年、22歳で父の会社に就職。実家はライスセンターも運営しており、種まき前の消毒から収穫後の乾燥・精米までを一貫して行っていた。

 業務に携わるなかで、今後の経営面では有利になるという考えから、米の等級などを検査する「農産物検査員」と、農薬の販売や管理を行う「毒物劇物取扱責任者」の資格を取得。

 また2017年に結婚した夫は、農薬散布を自社でできるようドローンの操縦資格を取得し、経営環境を整えていった。

 長い間、営農記録は手書き、通信手段はFAX中心だったが、2020年にインターネット環境を整備したことで、作業や栽培の記録をデジタルで管理できるようになった。将来の経営継承を念頭に、夫と2人で作業の効率化や事業拡大を段階的に進めている。

〜夫と共にバナナ栽培に着手〜
 夫はもともと自動車ディーラーだったが、生物や植物を育てることが好きだったことから、新しい展開のひとつとして、農薬や化学肥料を使わない国産バナナの栽培に着手。

 きっかけは父が購入した競売物件の農地内にハウス施設がついていたことから、これを活用するために始めたもの。

 当初は、レタスやスイートコーンなどを作ろうと試みたが、わざわざハウスを使うメリットを感じなかったため、父の知人が家庭菜園で育てていた「アイスクリームバナナ」という品種の株を分けてもらって挑戦。しかし、草丈が伸びすぎて、ハウスの屋根を突き破ってしまい、最初の年は失敗。

 翌年には種苗会社に勤務する大学時代の友人から、草丈が小さな「三尺バナナ」の苗を100株購入して再挑戦したが、今度はハウス内を暖房する設備がなかったことが災いして冬に全滅。

 加温設備を整え、手探りで論文などを読んで栽培方法を見直し、摘果方法や温度管理を徹底したり、独自の追熟法を採用するなど試行錯誤した結果、2022年、ようやく満足できる品質のバナナが完成。サイズが小さく希少な三尺バナナを「たかきのバナナ」として売り出すようになった。

 その頃、神戸の洋菓子店と契約話が進んでいたが、コロナ禍で販売の目処が立たず、白紙へ……。それまで個人消費者向けの商売はしたことがなかったが、初めて産直サイトに出品したり、ふるさと納税の出品登録をするなど、新たな販路開拓を目指して、自社ホームページも開設した。

 販売を始めてみると、熊本でバナナができるという意外性がウケて、メディア等で取り上げられるようになり、福岡の洋菓子店と新たに契約するなどビジネスチャンスが広がっていった。 

〜将来の事業継承を見越して、最新技術も積極的に取り入れ〜

 バナナが順調に伸びているとはいえ、経営の主軸は「球磨川(くまがわ)急流米」をはじめとする米であることに変わりはない。

 米の収穫には、コンバインが刈り取った籾(もみ)のタンパク質含量や水分量などを自動計算して、そのデータを元に乾燥機に籾を投入することで、タンパク値が低い美味しい米を仕分けられるIoT技術など、スマート農業技術も積極的に取り入れている。

■農業の魅力とは

 農業の一番の魅力は、自分の好きなようにできるところ。そして、”トライ&エラー”がわかりやすいことも、魅力です。

 その1年間に挑戦したことの結果がすぐ見えるし、成功や失敗を肌で感じられるのが楽しい。たとえ失敗しても、原因がはっきりすれば、改善して次の段階に進めます。

 実際に農業に携わってみると、就農する前に想像していたよりも「こんなこともできるんだ! あんなこともやってみたいなあ!」と、農業の可能性がどんどん広がってきて、ますます面白くなっています。毎日の生活でそれを実感し、実践しています!

 八代の若い農業経営者は、ステレオタイプの農家のイメージではありません。例えば「ブロッコリーが売れる」と聞いたら、みんなが一斉にブロッコリーを作り始めるほど「儲かることに貪欲」です。私たちの成功が広まって、将来は「八代がバナナの産地」になったら面白いなあと思っています。

■今後の展望

 バナナについては、熊本県での成功例として他の生産者から「見学したい」と訪問を受けることもありますし、なかにはバナナ栽培を始めた人もいます。

 八代はひと昔前は畳表を作るためのい草、近年では日本一大きな柑橘として知られる晩白柚(ばんぺいゆ)で知られていますが、今後は他にもバナナに挑戦する生産者が増えて、地域の特産になったら地域おこしにもなりますし、「八代は何でもできる、何でもある」と広く思ってもらえるようになったら嬉しい。

 それに、バナナは当社のPRにも役立っています。ウチのメインはあくまでも「米」ですが、バナナをきっかけに知ってもらえることもあります。海外に輸出の商談に行く時などにお土産として持っていくと、その場で食べられますし、営業ツールとしても最適なんですよ!

 2014年に就農して10年を迎えますが、2027年を目標に、私たち夫婦が経営を引き継ぐ準備を進めています。田舎のためインターネット回線が地域に引かれたのが2020年と、デジタル環境を整備するのが遅れていたのですが、事業承継に向けて、システムを整えて作業管理記録の「見える化」を進めます。

 さらに将来は、会社のグループ化も夢見ています。若い社員が弊社で5〜6年修業した後に独立就農したら、グループとして大口の取引が可能になります。

 独立したばかりの若い農家は販路開拓に苦労しますし、複数の生産者で作ることで、出荷調整も可能になり、お互いにメリットがあります。仲間が増えれば、地域の農業生産基盤も強化されて、活性化できるでしょう。

 私個人でいうと、最近ではライスセンター業務の多くを担当するようになりました。経営を担当している夫と二人三脚で、今後は多品目の露地野菜栽培にも挑戦していこうと考えています。(記:沼田実季)

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