【Baseballの話】【ゲームの作り方】投手の休養ルール
はじめに
以前、タカラのプロ野球カードゲームについて紹介しました。
このゲームのウリは、外箱に書かれたキャッチコピーに凝縮されています。
つまり、1試合だけでなくペナントレースを楽しめるということです。
また、同記事内で比較のために紹介した「熱闘12球団ペナントレース」も、名前の通りペナントレースを想定したゲームです。
しかし、このようなアナログゲーム(「パワーベースボール」とか「THE BIG 野球」なども含む)で、ペナントレースを開催するのは容易ではありません。
例えば、怪我人。
現実では故障により長期離脱する選手がつきものですが、ゲームなら毎試合ベストメンバーが組めてしまう。
(注:「熱闘」では、まれに数試合欠場するイベントは起きます)
そして、投手の起用法。
投手の起用法
先発投手のローテーションを決めるルールや、リリーフ投手の連投を制限するルールがないと、現実ではありえない投手起用ができてしまいます。
例えば、伝説の「10.8決戦」では、ジャイアンツの先発三本柱が「槙原、斎藤、 桑田」の順で登板しました。ゲームならそれが毎試合できてしまう。
ではどうすれば、多く投げた投手をきっちり休ませつつ、しかし監督の采配をガチガチに制限はせずに、実現できるでしょうか?
これを、誰かが考える必要があるのです。
二つの軸
一つめの軸は、所定の休養を必ずとる強制休養のルールにするのか、疲れた状態では能力が低下するペナルティのルールにするかの点です。
二つめの軸は、休養が必要になるレベルの判定を、投球数にするか、投球イニングにするかの点です。
この二つの軸のそれぞれの選択肢の組み合わせで、4通りのルールができることになります。
それぞれ具体例を挙げて、考察したいと思います。
投球数で判定する、強制休養ルール
WBC
これはゲームではなくて、WBC(World Baseball Classic)でルール化されています。
これをそのままゲームに適用することができます。
当然ですが、スコアブックをつけるなりして投球数をカウントする必要はあります。
また基本的に、選手層が厚いチームに有利なルールということは理解しておくべきでしょう。
例えば、3イニングを49球以下で抑えることができる好投手が6人いれば「ある試合では3人が3イニングずつ」「次の試合では別の3人が3イニングずつ」で回すことが(ルール上は)可能ですので。
侍ジャパン
現実の日本代表チームはとても選手層が厚く、先発投手は実際に起用した選手だけでも5人(大谷、ダルビッシュ、佐々木、山本、今永)いました。
ということは、ずっと連戦が続いていてもルール通りに中4日で回すことが可能でした。
リリーフ投手の連投もルールで制限されていますが、実際の日程では連戦になっていたのは一次ラウンドの4試合と、準決勝・決勝の2試合のみだったので、全く問題になりませんでした。
筆者が調べたところ、連投による休養が発生したのは、一次ラウンドで韓国戦とチェコ戦に連投した宇田川投手のみでした。
(準決勝と決勝に連投した大勢投手は「次戦」がないため休養の必要もなし)
投球数で判定する、能力低下ルール
ベストプレープロ野球
ダビスタ(ダービースタリオン)で知られる薗部博之氏が開発した「ベストプレープロ野球」は、体力200を最大として基本的に1球投げるたびに体力が1下がるシステムでした。
そして回復力という平均25くらいの数値があって、休養した日はその数値の分、登板した日はその半分の体力が回復します。
体力が低下すると能力も低下するから、球数が多い先発投手は終盤につかまりやすくなるし、連投を続けたリリーフ投手は能力を発揮しにくい。
課題は、体力の最大値200のときに対して何の能力がどれくらい低下するかがブラックボックスなことです。
自分で設定する場合にはどれくらいが妥当なのか、薗部氏が行った試行錯誤を自分もする必要があるということですね。
投球イニング数で判定する、強制休養ルール
熱闘12球団ペナントレース
「熱闘」は1980年代にホビージャパン社から販売されていたことから、同社のタクテクス誌上で、同社主催のリーグ戦向けに採用・運用したものを紹介していました。
投手の休養ルールについては、筆者が確認できたものに限っても、四回掲載されました。
史実で多く投げた投手はゲームでも休養が短くてすむようにすることと、休養十分な投手の能力が上がりやすくなって打高投低を是正することが目的でした。
(2023/8/7追記)
オリジナルルールの存在も概要レベルで確認できましたが、かなり粗いものだったようです。(先発投手の休養は中三日、など)
22号:先発投手の休養を中四日以上に変更し、リリーフ投手の連投を制限するルールを規定した
45号:先発投手・リリーフ投手のそれぞれで、史実でより多く投げた投手にはより早く次の登板機会が来るようにルールを改訂
53号:史実でより多く投げた投手の判定にはイニング数だけではなく登板試合数も加えて緩和するようにルールを改訂
65号:史実でフル回転したリリーフ投手がゲームでもフル回転で登板できるように、リリーフ投手の休養ルールを改訂
最終的なルールはこのようになりました。
投球イニング数で判定する、能力低下ルール
上記のように、タクテクス誌45号では、ロングリリーフのときと連投のときにはグレードが下がりやすいルールが採用されました。
加えて、所定の休養日より多く休養するとグレードが上がるルールもありました。
逆に短い休養で投げることもできて、その場合にはグレードが低下します。
「熱闘」用のルールの課題
これらの補足ルールの経緯としては、はじめに85年度版向けにオリジナルルールの粗さを補うように規定して、87年度版、88年度版、89年度版向けでそれぞれ変更したということです。(86年度版向けに補足ルールがあったのかなかったのかは未確認)
筆者が見るところ、少なくとも87年度版向けでは完成されていますが、88年度版向けでは「年間200イニングを投げた先発完投型が少なくて、先発ローテンションを組むのが難しい」、89年度版向けでは「70試合140イニングも投げたリリーフ投手(=大洋の中山浩章)を活躍させたい」という、その年度特有の理由によって変更されました。
また別の年度では、その年度に適した変更が必要かもしれません。
つまり、いかに万能なルールの作成が難しいかを物語っています。
例えば、2020年代では「年間200イニングを投げる先発投手」は1980年代よりも珍しくなっており、さらには「規定投球回数に達するリリーフ投手」はもっと珍しい。
その代わりに、「登板しない日は指名打者としてホームランを量産する投手」が存在します。
「彼」のための特別なルールが必要かどうか、議論が必要でしょう。
筆者が考案して運用していたルール
最後に、筆者が「タカラ」でペナントレースを主催していたときに運用したローカルルールを紹介します。
単純化すると、「その試合で投げた投球回数の端数を切り捨てて1を引いた日数だけ休む」ということです。
基本的にはHJ社の「熱闘」ルールの応用なのですが、先発投手とリリーフ投手に分かれているのが面倒だったため、統合しました。
また、「タカラ」のカードには試合数しか記載がないので、史実で投げたイニング数を参照するルールは入れませんでした。
これでかなりシンプルにはなりましたが、反省点もあります。当時筆者が使っていた投手ランク計算法では、中継ぎ投手には不利でした。
タカラの投手ランク計算例
したがって、「先発投手がいくら打たれてもなるべく引っ張って、ダイレクトに抑え投手に継投する」という監督が多くなり、中継ぎ投手の活躍ができなかったという問題点がありました。
今なら投手成績にホールドがあるので、3ホールドごとに1勝を加算するとか、救援登板10試合ごとに1勝を加算するとかで、中継ぎ投手のランク評価を工夫したいところですね。