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いつかのその日まで。

店から出ると、さっきまで弱く霧雨のように降ってた雨はやんで、辺りはすっかり暗くなっていた。

「帰りにスーパーで買い物したいの。付き合ってね。」と言いながら、小学生の息子と2人、並んで歩き出した。

その時、もぞもぞっとして、手が何かに触った。
んっ?と思ったら息子の指先が微かに手のひらに当たっている。
気付いた瞬間、その手を握った。

「握るの久しぶりだね。」と息子は少し照れてるような、ちょっと嬉しそうな様子で言う。リラックスしている様子が息子の手からも、伝わってくる。

細い女の子みたいな手を私が包み込むように握りしめる。
来年からは中学生。この手をあと何回繋げるのだろう。


小さな、小さな、手からここまで大きくなった。
知らない内に、大きな包み込むような手に変わって行くのだろうか。
私はそのちょっとずつの変化を感じられないのだろうか。

まだ、身長は越されてない。
私の鼻の辺りまで。
いや、少し小さく見積もった。
目の辺りまで来ている。
すぐに越されてしまうだろう。

身長が大きくなってほしいと言っていながら、まだ、越されたくないと思ってみたり、早く成長して自主的にやれるようにと願いながら、子供らしい様子をみて、まだ手を離れないとほっとしてみたり、私は矛盾だらけだ。


手をギューと握ってから、離そうとしたので、私は、ギューと握り返して離さないように意地悪した。
恥ずかしさはちゃんと分かっているし、もう親と外で手を繋ぐような年では無い事も分かっている。
でも、今日はこんなにリラックスした気分になっているのだから、少し位良いじゃない。。。


「離さないの?」と言うので、「大通りに出るまでね。」と答えた。
そう言えば、離さないでいてくれる事は分かっている。
夜だし、ここはすれ違う人もほとんどいないので、人目につかない。あまり恥ずかしさも感じないのでは?との思いを言葉に含んでいるのを感じてくれている。そして、もう少し手を離さないでいてほしいという願いも。


息子は気分が良いときは決まってクイズ大会が始まる。
昔からそうだ。
保育園からの帰り道、夕日の中。
習い事からの帰り道、暗い中。
私はクイズに答えていた。

昔と違う点は、今はそのクイズが難し過ぎてほとんど答えられないと言う点だ。(笑)

「分かんないよー!」とか、
「そんなの知らないよー!」とか
言って、何とか答えられる物に変えてもらおうとするが、私を困らせて楽しんでいるみたい。

もう、大通り。
手に気が行かないようにと思って、話が途切れないようにしていたが
「もう、大通りだよ。」と言って離されてしまった。

少し冷たくなってきた夜の風が私の手から温もりを消していってしまう。


ー*ー*ー


息子との関係は少し変わりつつある。と感じている。

つい最近、肩をぽんぽんぽんと優しく叩かれてあやされた。


テレビを見ていて、ソファーで寝転がっている子どもにじゃれつきたくなり、床に座り肘を子どもの両足の間に差し込んでみた。

そのうち、力が抜け過ぎちゃったのだと思う、体重をかけ過ぎたようで、私の肘を手で退けたので「あっ、重かった?」と言おうとした時に、息子がぽんぽんぽんとゆったりとしたリズムで優しく私の肩を叩いた。

ふわっと一瞬で暖かい、気持ちがする。

ぽんぽんされて落ち着くのは、子どもだけじゃないみたい。
大人になった今でも、親にぽんぽんされてあやされた子どもの頃の記憶を思い出しているのかも。

あっ、これ、あった気がする。と思い、すぐに思い当たった。
最近、他の人からも肩をぽんぽんぽんと優しく叩かれていた。


残念ながら、恋愛の話ではない。(笑)

その手からは、この場を離れるけどリラックスしていてね。という温かさと私への気遣いが伝わってきていた。

そうか。  肘は退けるけど、そのまま、リラックスしていてねー。といった感じだったのか。

もう、大人へ変わる準備が出来つつあるのかもしれない。
時には息子が私に安心感をくれるようになって来ている。


そういえば、前にサッカーでケガをした友達に寄り添って背中をぽんぽんしてるのを見たっけ。
辛い気持ちを、その手で少しでも癒そうとしてた。
友達や下級生と関わる中で、頼りがいを身につけていたようだ。

友達との交流で、友達の意見を聞いて、対話する事で相手の考えを受け入れようとする、相手意識が高まって来ている。
また、それとは違った形で、言葉にならない相手の気持ちを読み取り、言葉によらない表現を使って、思いや考えを伝えようとしている。
自分の気持ちを表現する事が難しい時でも、その距離感だったり、相手に触れるという行為やちょっとした言葉のトーンで相手に気持ちを伝えようとしているし、相手からも感じ取ろうともしているのだ。

まだ、この先は分からないけれども、学校休校が終わって、友達と一緒にいれるようになって良かったね。

だんだん大人になって行くんだね。


私から離れて行くのは、きっとこれから徐々になのだと思う。

まだ、離れてしまうまで少しあるのなら、この僅かな時間を大切に感じたい。


ー*ー*ー


息子はこのnoteの存在を知らない。
知ったら恥ずかしいと言って怒るだろうか。

コロナ自粛の頃、家の片付けをしてたら、小さい頃に書いてくれた“お母さん大好き”という紙が何枚も出てきた。
そういえば、私は息子に大好きと書いて渡した事が無い。
なので、この記事はいつか気付いて読んで怒られるその日まで残しておきたいと思う。

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