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立場

 「視点を変えてみよう」。ほろ酔いの先輩が、ハイボール片手に急に話しはじめた。
 「鬼には、鬼の生活があると思わないか。やつらにも家族がいて、やつらなりの倫理観があるんだ。それを培うための教育だってあるはずさ。きっと族長には、一子相伝で人間を倒す必殺技とかも引き継がれていたと思う。だけど、犬や猿、雉と人が共同で攻めてくる対策はなかったんだ。しかも、吉備団子のドーピングは想定外だよな」。先輩は、まるでその戦に参加した鬼のように、遠くを見つめている。
 「昔の先輩、本当に鬼でしたもんね。鬼族からしたら悲しいお話ですね」。「ああ」。僕のささやかなボケは、一言で呑み込まれた。もう少しリアクションがほしい。
 「良いこと言うじゃん。感動したよ」。僕は感想をタメ口で伝えてみた。「もっと言い方があるだろう。そんな言い方をされる先輩の立場を考えろよ」。
 良いツッコミじゃん。僕は、心のなかでまたタメ口を使った。

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