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めくるめく喜び

 目の前の少年が、楽しそうに本を読んでいる。背表紙には、○○図書館と書いてある。おそらく親に連れていってもらい、自分で選んだ本なのだろう。僕も中学生の頃に読んだものだ。「それ面白よ。でも、もしかしたら君の年齢では難しい描写もあるかもしれないね」。と声はかけないが、好きな作家なので、少年にも好きになってもらいたいと願ってしまう。
 僕の心配をよそに少年はすらすらと読み進めている。きっと文章との相性も良く、作者の気持ちを想像できる子なのだろう。ページをめくるたびに目の輝きが増している気がする。気に入った文章なのかは分からないが、熱心にメモもとっている。ちなみに僕は、素敵な文章を読んでも、遠くを見つめて頭の中で言い回しを反芻するだけだ。
 少年はさらに読み進める。文章を楽しみ、順調にページをめくる。たしかあの本は、風合いのある紙で感触がよかった気がする。
 僕の手元には、Kindle。めくる喜びが…。

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