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猫と靴下と

 物探しが苦手だ。僕の靴下や携帯には、きっと足が付いている。僕が見つけたいと念じれば念じるほど、それらは、足速にどこかに隠れてしまう。そのせいで猫が一瞬で駆け抜けることができるような広さの家なのに、探し物は一向に見つからない。
 待ち合わせ時間が迫っているが、靴下がない。またどこかに走っていってしまったようだ。靴下は何処へ。靴下は何処へ。
 ふと猫を見ると、靴下の片足をくわえていた。なぜか勝ち誇った顔をしている。時間はない。でも、いきなり奪うと機嫌を損ねそうなので、しばらく泳がせよう。猫はおもむろにテレビの裏に行き、満足そうにそれを置いた。テレビの裏を見るとクリップやら爪切りやらと一緒に、もう片方の靴下もあった。どうやら猫の宝物庫らしい。犯人は君か。
 僕は靴下を履いて、家を出た。到着がギリギリになることを友人に連絡せねば。ポケットに手を入れる。だが、携帯は入っていなかった。真犯人はいったい。

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