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[読書感想] 変身(カフカ)

「変身(カフカ著)」を読みました。カミュのペストと異邦人を読み、他の著者の不条理文学も読んでみようと思いました。

あらすじ

この物語の主人公はグレーゴルという男性です。物語の冒頭、グレーゴルが目を覚ますと、自分が大きな虫になっていることに気づきました。グレーゴルは、両親、妹と暮らしており一家の稼ぎ頭でしたが、突然虫になってしまったため、仕事できなくなります。彼の代わりに父親は再度働き始め、母親はアルバイト、妹はグレーゴルの世話をしますることになりました。世話を始めたころ妹は丁寧にグレーゴルの世話をし、彼も家族に迷惑をかけないようひっそりと生活します。当初妹や母親はグレーゴルがいつか元に戻ると信じていたのだと思いますが、時が経つとそのような生活を続けるのにも疲れグレーゴルの扱いも雑になっていきます。家族は生活費のために家の1室を3人の男性に貸すことにします。そんなある日、虫となったグレーゴルは3人の男性と家族がいる前に顔を出します。それがきっかけで家族は3人の男性とトラブルになり、再び困窮する羽目になります。「グレーゴルはいなくなった。あれはグレーゴルではなく虫だ。」と妹たちが話しているのを聞き、グレーゴルはショックを受け、食事をしなくなります。結局、グレーゴルは餓死し、家族は吹っ切れたように新しい生活を始めることを決意するというお話しです。

はじめに-虫は何かの比喩なのか-

物語の冒頭、「主人公が朝起きたら虫になっていた」という、非常にインパクトの強い書き出しです。異世界に転生する物語も多々ありますが、変身はそのような類のものではないでしょう。そこで私は「虫に変わるとは何の例えなのか」を考えながら物語を読み進めました。

今回、私は「虫に変わることは、事故か病気で身体が不自由になった。身体に限らず言語障害や認知症も含め、いわゆる障がい者となった」と仮定して読みました。つまり、障がい者と介護する家族の物語であると置き換えて読んでいたと言えます。「一家の稼ぎ頭だった長男が突然障がい者となり(あるいは兵として戦地に赴き国のために戦ったが身体が不自由となって帰ってきた)、一度は定年退職した父親が再度働き始め、母親はパート、学生の身分の妹が兄の世話をする」といった感じでしょうか。最初は長男が治りまた働けるようになると期待しつつ、今までとは生活を始めますが、生活は困窮し、介護生活も辛くなっていきます。今まで一家の稼ぎ頭だった本人としても、このような状況で介護を受けることは心苦しいでしょう。家族は介護に疲れ、一家は世間から白い目で見られるようになっていき、最終的にその重圧に耐えられず主人公は自殺する、という結末になります。

変身は障がい者とその家族の物語だと仮定して思ったこと

このように仮定すると、突然障がい者となった働き者とその家族(介護を受ける側とする側)、障がい者への差別的な扱いがポイントになると考えられます。
つまり、障がい者とその家族の不条理
-家族は最初献身的に介護するが、回復の兆しが見えず肉体的にも精神的にも疲れがたまっていく。今までは一家を支えてきた当人はそんな様子を眺めながら、介護してもらい続けなければならない。今まで何事もなく接してくれていた世間の一家に対する目も冷たくなった-
そのような様子を描いた物語であると解釈しました。
近年は障がい者とその家族への理解がだんだん得られるようになってきていると思いますが、それでも介護疲れがきっかけとなって障害等の事件に発展するニュースを見ることがあります。変身が書かれたのは今から百数年前です。障がい者とその家族への理解はほとんどなかったのではないかと思います。障がい者とその家族の不条理を描き、彼らの大変さを伝えることにより状況改善の一助としたかった、というのがカフカからのメッセージとして私なりに解釈しました。

おわりに -工学者であることを意識して思ったこと-

今回カフカの変身を読みながら、工学者はどのようにこの問題に貢献できるのかを考えていました。数学や物理、化学、生物などの分野で発見されたことや導かれた理論などに基づいて、世の中の役に立つモノを創るのが工学です。
モノづくりの観点から例えば「障がい者が不自由になった部分をサポートするようなロボット」「介護者をサポートするロボット」「障がい者と介護者間の会話の齟齬を補うようなシステム」
等で貢献できるのではないかと考えてみましたが、これでは不十分だと思います。先日読んだ「多様性の科学」にあるように工学的な知見だけではなく、医学的な知見(医者、看護師、介護士、臨床心理士ら)と情報共有や意見交換をしながら考えるのが望ましいでしょう。可能であれば患者とその家族とも意見交換しながら、障がい者とその家族助けとなるようなモノを考えるのが良いのだと思います。

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