海の陽炎

海の陽炎。

水の流れに身を任せる。未来へ必死に泳ぐ魚の隣で、私は海を漂うのみ。

濁りに身が包まれる。身体が汚れていくのを静かに感じる。

「プランクトン」

人間は私のことをそう呼ぶらしい。

名前なんてないのに。人間は名前がないと世界を認識できないらしい。

可哀そうだ、本当に。ありのままの美しさを知らないのだろう。常に何かに追われているんだ。

私は今日も漂う。漂うことでこの世界を知る。

成体と幼体。その狭間で息を吸う。

未来が浸透していく。つま先から色がついていく。

この色は呪縛だ。

使い古された純白のパレットに絵の具が滲む。そして固まる。

深く息を吸う。

肺に流れる空気は循環し、酸素を血脈へと送り出す。

ゆっくりとゆっくりと温かくなる。

この海はいつも理不尽だ。荒波は私の味方にはなってくれない。

脱力する。

私はこの海を愛してる。

私はこの海を憎んでる。

あぁ、何をしてきたのだろう。

ただ息をしていただけだ。何もせずに。

生きてるだけで十分なんだと、そう言い聞かせて。

けど違った。違ったんだ。

私は泳がなければならない。

短い命を溶かしていかなければ。

海の中で燃えていくんだ。燃えなければ。



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