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演習形式の必修講義のオンライン化に向けた準備と各種サービスの検討状況

新型コロナウィルスの影響で,ゼミや講義,演習などをオンライン化する必要があって,各大学の先生方(特に学部1年生を対象とする講義をもっている先生)はてんやわんやの状態だと思います(特別手当が欲しいレベル).

私も,この春学期だけでも,先端メディアサイエンス学科(明治大学 総合数理学部)の1年生対象で100人を超える学生さんをある一定以上のレベルまで引き上げなければならない演習形式の必修講義(月水の3・4限でそれぞれ200分)の「プログラミング演習1」を主として担当しており,また専門科目の「情報分析と可視化」,そして1年,2年,3年,4年,修士それぞれのゼミナールを担当しています(他にもオムニバスで1回だけ担当はありますが).

一方的に話すタイプのものであれば色々選択肢はありますし,研究室のゼミなどのように,交代で話をするようなものであればZoomで話者を切り替えていくタイプでこれまでのところは対応できています(とはいえ,ウサギにネットワークケーブルを噛み切られてネットワークにつながらないなどのトラブルは多発していますし,通信量がかなりすごいことになるため,本当に必修講義として安定運用が可能かは怪しいところですが).

また,グループワークを行う場合も,Zoomのブレークアウトルームを使えば結構効率よく行うことができました.ここら辺,Zoomはよくできていると思います.で,当初はZoomを利用して演習を運用しようと思ってたんですが,やってみると課題もたくさん出てきました.

まず,プログラミングの演習形式の必修講義(100分が2コマで1セット)の場合,目標とするのは学科の全学生のプログラミング能力の底上げになります.これは,1年次後期および2年次の科目でプログラミングの基礎知識が必要なこと.また研究室に本配属されてから最低限でもプログラミングできるようになっておくことが重要だからです(つまり,ここで失敗すると自分に跳ね返ってくる).で,プログラミング系科目の場合,最初からレベル差があるうえ,プログラミングの習得には得手不得手があるので,全体の底上げを図りつつ,ある程度できる学生を飽きさせないという仕組みが重要になります.

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私の担当する講義では,これまでまず予習資料をウェブで配布し,その予習資料の中に小テストで出すというマークを付けておき,予習段階で少なくともそれだけはなにも見ずにプログラムできるようになってもらうようにしています.

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演習講義では,最初の10~15分で何も見ずにパソコンを利用して解いて提出する小テストを実施.また小テストの解説の後,その講義の回の解説を行い,基本課題(必ず解かなければならない課題)と,発展課題(解くと加点される課題)を提示し,その課題が提出されるとリアルタイムに採点していくという方法をとっています.さらに,最終回は発表会とし,そこですべての成果を発表してもらうという形式をとっていました.

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上図は,リアルタイム採点状況可視化システム.上段が基本課題の達成状況,下段が発展課題の達成状況.プログラム提出フォルダに課題が提出されると砂時計になり,採点者がチェックして,あっていると○,間違っていると×がつけられます.また,全部合ってたら色が変わり,自分がどういう状況なのかがわかります.

当然ですが,課題の達成状況はひとによって異なり,さっぱり手が進んでいない学生さんもいます.そこで,教員は各学生のデスクトップをチェックしつつ,課題の提出状況をチェック,またTA(ティーチングアシスタント)さんが巡回しながら進んでいない学生をチェックしたり,また手が上がったらその学生さんのもとにいってケアするという方法をとっていました.

つまり,プログラミング演習の講義は,この教員とTAさんによる進度チェックと,できていない学生さんを積極的にケアすることがとても重要なのですが(というか,そこが生命線なのですが),このケアがオンライン化によってかなり難しくなるというのが大きな問題となります.問題を放置してしまうと,多くの学生が目標を達成できずに,単位を落とすか,もし条件を緩めると他の講義に影響が出るという問題が発生してしまいます.

ということで,色々試行錯誤しているわけですが,まず仮に全員が問題なくZoomを使えたとしても,Zoomはこうしたケースには全く向いていない事がわかりました.それは,質問する学生と回答するTAの関係が多対多によるものであり,また,(質問する学生数)>(TA数)となるため,どうしても順番待ちが発生するということによるものでした.

また,順番待ちについて,物理的な教室であれば,手が挙がっていることで,誰が質問をもっているかがわかりますし,次は誰かということが何となく把握できます(とはいえ,ちょくちょく順番ミスしますが).一方,オンラインだとそれが見えません.

当たり前ですが,Zoomのみんながいるルームで質問すると,他の人にも質問が聞こえてしまって邪魔ですし,複数の質問が走ると混信して訳がわからないことになります(実際に,10人の学生,2人のTA+私でやって破綻しました).

そこで考えられるのが,Zoomでブレークアウトルームを作って,TAを割り当てるというものなのですが,このブレークアウトルームがなかなか難儀です.ホスト(参加者をコントロールする人)がTAを各部屋に割り当て,そこに質問者を割り振っていくというのが一つの運用として考えられるわけですが,学生が勝手に部屋に入っていけないので(出ていくことは可能),その割り当てをすべてホストがコントロールする必要があり,手間が増えまくって破たんします(学生をTAルームに割り当てるということだけをする担当者を別途作るというのは手としてあるとは思いますが).また,順番待ちを管理するのが大変で(目視でやる必要がある),そのインタフェースも100人近い名前リストからブレークアウトルームに割り当てるユーザを探し出す必要があるなど,かなりの手間が必要となっています.

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なお,事前にTAと全学生をグループ分けしてブレークアウトルームに割り振るという手もなくはないのですが,学生とTAが多対1の関係となって,破たんしますし,全体向けのアナウンスが音声&映像でできないなどの問題が生じてしまいます(チャットは可能).

ってことで,Zoomがダメになった今,第一候補になっているのがRemo Conferenceです.このサービスは,ユーザが部屋に自身のアイコンをもっていくだけで,その部屋に閉じたやり取りを行うことができます.

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ユーザは気軽に部屋に入室し,画面共有を行うことで質問を行い,TAさんもその画面をみつつ問題解決を図り,終了し次第退室するということができます.


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また,全体向けの音声+映像でのアナウンスが可能(Presentというボタンを押すと,全参加者向けの動画配信が始まる)なので,学生さんがどの部屋にいてもそれを遮断してアナウンスをすることが可能というのも優れています.

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難点は,仮想背景を利用できないので,SnapCameraなどと併用する必要があることと,お値段がそれなりに高く,また料金体系がややわかりにくいというところでしょうか(いまだに,やろうとしていることにいくらくらいかかるのか不明なのも悩ましい).

あと,最近だとSpatial Chatというのも登場していて,これ自体も空間を気軽に移動し,近くの人の声がよく聞こえて,遠くの人の声が聞こえにくいという仕組みになっており,音声ベースのグループワークなどを行うのにはとても良い感じなのです.

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みんなに近寄ってもらえないとよく聴こえないので,アイコンを動かしながら呼んで回るとかのインタラクションは面白い.ちなみに,みんなが自分の周りに集まってきてくれると,なんか楽しい.

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ただ,画面共有は1人のものが全員に共有されてしまうのと,カメラでSnapCameraなどを指定することができないこと,またそもそも50人が上限であることなどの問題があり,残念だけど使うのは厳しいかなという印象.なお,演習講義やゼミでは利用できないけれど,バーチャル研究室として日々運用するのにはありかもしれない.あと,アイスブレーク的なものには向いているかなという印象.

ちなみに,画面共有が全員になされるのはデメリットなのだけど,こんな感じで画面共有することにより,アナウンスをすることができるのは面白い.

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ってことで,現在明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科では,予習資料をこれまで通り用意し,Remo Conferenceを利用して講義+TAルームを訪れる形での質問応答を可能とし,また1年次学生対象のSlackを作ってそこに全学生を呼んで(学科教員のみなさんのご協力により,電話やSMSなどを駆使しつつ105人中102人を何とか集めた!)オンタイムでのやり取りを可能とするとともに,テキストでの質問応答補足や必要な情報を文字として残すということを行い,さらにはTAさんの協力によりScrapboxに事前に想定される質問応答集をため込んでおくことにより,なるべく自分で解決を図りつつ演習講義を進める仕組みを作っています.

とはいえ,これはまだ現段階のもので,実際に講義が始まる6月(クォーター講義のため2か月集中型です)にどのような状況になっているかはわかりません.これより良いシステム,サービスを導入できるかもしれないので,ご存知の方いらっしゃいましたら教えてください.

ということで,今のところの記録として.

すべてが取り越し苦労で終わって,運よく新型コロナウィルスも終息してて,「これだけ準備したけど全部無駄になったね!」と,演習室で実習をできているとよいなぁ....



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