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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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#400字小説

【400字小説】ミステリー・ラブ・ファンタスティック

【400字小説】ミステリー・ラブ・ファンタスティック

鬱になって3ヶ月、家を出ていない。毎晩あの人が夢に出てくる。結婚したかった、あの人と。職場の同僚だった、でも、結婚して退職するんだ。ついでにオメデタだそうで。

それを小耳に挟んでから出社していない。今夜はあの人の送別会だった。その模様の写真が同僚から送られて来て、あの人が花束を抱いて、顔が涙で化粧崩れしているのに、泣き笑っているのが、美しかった。別れは一人一人にハグしてサヨナラしたそう。だったら

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【400字小説】超*サマーヌード

【400字小説】超*サマーヌード

明るいのに堂々と下着姿になったあなたは強かった。「早く脱ぎなよ」と急かされて、いもっぽかったな、おれ。さすが3コ年上は違うなって、制服を脱いだんだ。

「チラチラ見てたでしょう」と愛撫している最中に言われた。バイト先の先輩、それが彼女。忙しいってのに、にこにこ接客するその姿に惚れていたんだ。でも、おれにだけ見せてほしい、笑顔。「誰にでもやさしんスね」と胸を掴んでいた手を休めた。「手を動かせ」ってお

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【400字小説】ChatGPT is Dead!

【400字小説】ChatGPT is Dead!

夜の国道を眺めている。ヘッドライトが走り去る。行く先はちりぢり。テールランプが不規則に光る。赤信号は見えない。外に見える大型中古車店の前には超*巨大な観音が立っている。

我々はChatGPT。スピーカーから流れるカントリー曲はどれも聴いたことがない。調べればわかること。死んだコービー・ブライアントの亡霊がこのステーキ店の窓ガラスに映り、美しいダンスを見せている。その向こうに、ぼやけて見える景色は

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【400字小説】斬りっぷり

【400字小説】斬りっぷり

厨房の奥で延々と野菜を切り続けるあの人の横顔をカウンターから見つめている。菩薩のような柔和さを携えた表情。永遠に切りまくるので悟りの境地。食堂に客がひっきりなしにやって来ては、ヒレカツ定食を頼んで食べて去って行く。

わたしは2時間前からそこにいて、ビール、日本酒をちゃんぽん。つまみは自家製の惣菜を。ポテサラ、しじみ汁、カニカマなどを少々。取材される前も忙しかった店で、露出後は大団円を迎える花火の

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【400字小説】水玉戦法

【400字小説】水玉戦法

国道を横断している際に、車がやって来て慌てたわたしは転んで、そのまま牽かれた。運悪く死ななかったよ。カラフルな水玉がクッションになったの。

「意味がわからない」とあの人に小説をこてんぱんに言われたけれど、これがわたしの信条だからやめない、やめない。むしろあの人の感性を疑った。

そんなど~でもいいことを倒れた青い空の下でなぜか思い出して、水玉が弾けるたびに心臓がドキンとして。あの人は黒縁眼鏡の見

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【400字小説】生クリームの湖にダイブ

【400字小説】生クリームの湖にダイブ

あなたと抱き合うのは体がベッタベタになるから好まない。裸になればあの3万円の腕時計を思いきって買えるはず。30万円のサングラスしてるあなたの気が知れない。お金持ちなのは正直魅力だけれど、言い寄られるこっちの身にもなってほしいな、拒否感。

ユーガッタマネーで構わない、アイガッタソウルしたい。わたしは幸せにはならない。お金とかセックスとか二の次で、わたしは絵を描き続けるの。《楽しいから描く》がわたし

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【400字小説】きみがわるい

【400字小説】きみがわるい

貴美は顔面蒼白で「あなたは気が狂ってる」って震えながら言うから、わたしは傷つかなかった。飲めないジャック・ダニエルを気取ってさ、痛々しい。

「あなたの書いているのは小説じゃない」って突き放されたこともあったっけ。あの時は怒鳴ってしまったけれど、今になると大バカだったなって反省してるよ。頭に血が上ったことにじゃなくて、貴美のセリフは貴美の主観だから、わたしの主観とは何も関係ないってこと。わたしはわ

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【400字小説】地球じゃない

【400字小説】地球じゃない

あの世界の終わりはあなたと迎える。もう終焉に向かっている! もしかして、もうエンドロール? あなたと惑星の果てまで逃げよう。

音楽だけが世界を救うんだって信じていた。ギターを鳴らしながら眠ってしまった。気がついたらギターを抱き締めて寝ていた。浮気! あなたは知らん顔?

プルーデンス・ファローに会えたのは夢の中で。そこから戻ってきても戦争は終わっていなかった。ジョン・レノンがいたらって嘆く。ボブ

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【400字小説】精神科病棟に入院したきみ

【400字小説】精神科病棟に入院したきみ

好きだったよ、繊細なきみが。だから、わたしは入院したって聞いた直後に、駆け足で見舞いに行った。「やあ」でも「こんにちは」でもなく、「ダウンしちゃった」と第一声に、きみが笑った。弱々しくて泣いてしまった。「どうしたの?」って、頭をよしよししてくれたきみ、逆じゃん。

面会所の窓ガラスの越しに見える中庭が爽やかで、様々な人が笑い合っていた。ほがらかに活気があって、でも全員病んでいるんだなって偏見のある

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【400字小説】花束をもらっても嬉しくない

【400字小説】花束をもらっても嬉しくない

なんかこの2、3日でフォロワーさんがグッと増えて戸惑っている。大抵が金儲けの輩か、自己顕示欲の塊か、偽善者かで、虚無感に襲われるよね。もうこれ以上、閲覧数も増えなくていいから、静かにやらせてくれ。スキ返しにもフォロー返しにも労力を使う。

こんなつもりでnoteを始めたわけじゃない。シンプルに、ただ楽しく書きたいだけだったじゃんか。でも裏腹にnoteという海に沈んでいたくはない、見つけて欲しいって

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【400字小説】嘘つきな自画像

【400字小説】嘘つきな自画像

「清潔感ありますね」って井の頭公園で似顔絵屋さんがわたしに言った。美人な似顔絵屋さんだったからお金を払って描いてもらうことを決断。でも「自画像にしたらどうですか?」だなんて似顔絵屋さんは言うんだ。少しムカムカした。

20分・3000円で仕上がったそれ、わたしではなかった。ブサメンなわたしはそこにいなくて、夏の日の朝みたいな青年がいた。そもそも現実世界のわたしは坊主頭で白髪交じり。それがどうだ、長

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【400字小説】屋上のコンバース

【400字小説】屋上のコンバース

4階建ての《コーポ銀河》の屋上にあがる。きれいな夜景があるわけでも、タワーマンションに風景を塗り潰されているわけでもない。ただある住宅街。近代的な図書館が見える。小児科の屋根が黄色い。風が生ぬるい。カレーの匂いはしない。

そこにスニーカーが転がっている。両方、底を空に向けている。誰かのコンバース。落ちていないキャップのロゴはニューヨークヤンキース?その女の背負うリュックサックは無地の紺だ。

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【400字小説】恋する惑星

【400字小説】恋する惑星

金田くんのお弁当は立派だ。バリエーション豊か。お母さんに愛されているんだ。唐揚げは冷めていてもoishiiと評判。《食べたい》という気持ちが居る。28歳だなんて、わたしはおばさん教師に違いない。だから、生徒と教師の距離がせいぜいだ。恋する気持ちはある。だけど、キモいと思われる自分をjikakuしている。‎

ウォン・カーウァイの『恋する惑星』を最近見ている。古い映画だ。金城武とフェイ・ウォンも美し

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【400字小説】めまい

【400字小説】めまい

貧血でひっくり返るのは、決まって水曜日の全校集会で。この頃は宮沢先生が横に立っていてくれる。先月から「椅子に座るか」と提案してくれるにも関わらず、拒否して、でも、結果は決まってぶっ倒れる。誰も心配はしてくれない。

わたしもどうかしていると思う。誰にも言えないけれど、めまいで気持ちが切れる時、何とも言えない快感を覚えるの。そんなこと、誰にも言えるわけないじゃん。

ところで《めまい》と《貧血》は同

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