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  • ゆる言語学ラジオ#4 の内容がトンデモだったので訂正する

    ゆる言語学ラジオ#4 で紹介されてた内容の大部分がトンデモに基づいているので正しい学説で訂正するシリーズ

最近の記事

床屋に行った。店員「自然な感じで良いですか」→ぼく「う~ん、今日は不自然な感じで!」

とはならないだろ。 あと Weiss (2020) “Outline of the Historical and Comparative Grammar of Latin” を37章まで読んだ。

    • 英語のswallowと漢語の嚥・燕のフェイク語源・字源を医療関係者が拡散している

      英語の動詞 $${swallow}$$ 「飲み込む」と名詞 $${swallow}$$ 「ツバメ」は語源的にも字源的にも関係がない。この2つの単語はもともと異なる発音と異なる綴りを持っていたが、歴史的変化によって偶然同じ発音と同じ綴りになった。 漢語の 嚥 $${yàn}$$ 「飲み込む」と 燕 $${yàn}$$ 「ツバメ」は語源的にも字源的にも関係がない。この2つの単語はもともと異なる発音と異なる綴りを持っていたが、歴史的変化によって偶然同じ発音と(部分的に)同じ綴りに

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        どうせ廃れるけど

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          連絡用に

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          竜は虹から進化した(Blust 2023)

          オーストロネシア語研究の権威として著名なRobert Blustが竜の謎に挑んだ。 第一章では各地の竜の特徴が整理され、問題提起がなされる。 ヨーロッパの竜はがっしりした体と大きな翼を持つが、中国の竜は蛇のようなしなやかな体を持ち翼を持たない。中東の竜は哺乳類のような体を持ち、インドの竜は上半身が人間の姿をしているとされたり複数の頭を持つコブラとされたりする。 このような明らかな違いがある一方で、興味深い特徴を共有している。「爬虫類と哺乳類または鳥類の特徴をあわせ持つ」

          竜は虹から進化した(Blust 2023)

          シャニマスプレイしたこと無いけどシャニアニ見た

          シャニマスプレイしたこと無いけど内容を知ってはいて(知り合いがプレイしてるのを見たり推薦されたコミュを動画で見たりしてるからキャラはわかってるつもり)、既知の作品のアニメ化は見るタイプの人間なので劇場に足を運ぶことにした。 自分はセンス系のアニメは苦手で、シャニマスのアニメがセンス系でないはずがないので心構えて見たが、1章はそんなわけないハプニングをアイドル自身が解決して最後にライブシーンというよくあるアイドル作品王道パターンだったのでまあ普通に面白かった。見る前はイルミネ

          シャニマスプレイしたこと無いけどシャニアニ見た

          漢語「三昧」はサンスクリット「समाधि samādhi」の音声転写では無い

          【要約】漢語「三昧 *sam-məys」はサンスクリット「samādhi」の音声転写ではなくガンダーラ語「samasi」あるいはその近縁方言の音声転写である。 (2023/11/13 一部加筆修正) サンスクリットの転写という記述漢語「三昧」がサンスクリット「समाधि samādhi」の音声転写だという記述は至る所で見られる。 新聞社の記事にもあれば、 悪名高い(?)インターネットサイトにもあり、 ツイッターでは定期的にこの記述を拡散させているアカウントが存在する

          漢語「三昧」はサンスクリット「समाधि samādhi」の音声転写では無い

          「計」の字源と上古音

          『説文解字』では「計」字が会意文字とされている。実際には「計」字は形声文字である。 会意文字解釈の誤り「計」字を会意文字とする解釈では、「十」は数の「10」を表すとされ、したがって「計」字の本義は「計算、合計」の類であったということになる。結局のところ、調べた限りでは、「計」を会意文字とする主張の根拠はこの「計算」~「10」という意味的関連性の心地よさのみに基づいているようである。 しかしこの仮定は、この文字に「言」が含まれている理由を説明できない。 「言」は最も普遍的

          「計」の字源と上古音

          諧声関係は上古漢語の口蓋垂音系列の再構を支持しない

          潘悟云(1997)、Baxter & Sagart(2014, esp. 43–46; Sagart & Baxter 2007, 2009)は、中古漢語の喉音(影母・曉母・匣母)の主要な由来として上古漢語の〈口蓋垂音系列〉すなわち「*q- / *qʰ- / *ɢ-」を再構した。 諧声系列について、潘悟云は軟口蓋音と口蓋垂音は音声的に類似しているので諧声系列上で区別されなかったと考えたが、Baxter & Sagartは、諧声系列上にも〈軟口蓋音系列〉と〈口蓋垂音系列〉が

          諧声関係は上古漢語の口蓋垂音系列の再構を支持しない

          曉母と重紐、「*qʰ-」と前舌母音

          曉母三等B類の字は非常に少ないようである。 通常の説明では、鈍音(曉母含む)では、「*-r-」介音の有無によって、上古元音が前舌母音(「*-i-」か「*-e-」)の場合に中古三等AまたはB、その他の元音の場合は特定条件(主に鋭音韻尾)下では中古三等CまたはBに変化する。「*-r-」介音を含む場合は三等B、含まない場合はAまたはCとなる。 曉母の三等Bを眺めていたところ、B⇔ACの対立がある環境の曉母三等自体が少なく、かつ無声共鳴音(「*l̥-」等)や唇音(「*qʷʰ-」)

          曉母と重紐、「*qʰ-」と前舌母音

          謝明文《釋古文字中的“葺”》前半部分の要約

          甲骨文字には「𦥑」「林/艸」「宀」からなる象形字がある。両手で草木を屋根に被せる形であろうと思われる。 党相魁(2009: 122–123)は「次」字の伝抄古文「𦮏」と関連付けて、{茨}の表語文字と解釈した。しかし実際には「𦮏」は「𠂔」字に由来し、上の甲骨文字とは関係無い。 周忠兵(2012/2014)は、特に《合集》34688の上部を、西周金文(《三代》3.2.7、《銘図》不収録)の「衰」とされている文字と関連付けて、{茨}{衰}の共同表語文字と解釈した。 しかし「艸

          謝明文《釋古文字中的“葺”》前半部分の要約

          上古漢語{深 *l̥um}

          Sagart(2021)では上古漢語における「*-um」「*-əm」韻の中古音反射について述べられている。 荏 *numʔ > nyimX ‘a kind of big beans’ 茙 *num > nyung ‘a kind of bean’ 「*-um」韻が、西部方言では「*-əm」韻と合流し(中古音で覃₁/咸₂/侵₃韻)、東部方言では「*-uŋ」韻と合流する(中古音で冬₁/江₂/東₃韻)という説明である。 朕 *lrəmʔ > drimX ‘I, we, ou

          上古漢語{深 *l̥um}

          上古漢語{灘 *n̥ˤar}

          OCNR §4.3.5.1(p. 112-116)に上古漢語の無声鼻音「*n̥-」の中古音反射の話が登場する。 漢 *n̥ˤar-s > xanH ‘(river name)’ 灘 *n̥ˤar > than ‘foreshore’ タイプA音節の「*n̥ˤ-」が、中西部(内陸部)方言では暁母「x-」に変化し、東部(沿岸部)では透母「th-」に変化するという説明である。 OCNR §5.5.1(p. 252-268)に上古漢語の語末「*-r」の中古音反射の話が登場する

          上古漢語{灘 *n̥ˤar}

          敗北

          「敗北」の語源をネットで調べようとすると、「北」という文字の成り立ちを語りたがる雑学屋さんにぶつかってしまう。 民間字源学者は「この文字は○○という形をしているから△△という意味がある」という間違った説明が大好きだ。「北」という文字の形が、互いに背中を向けた人の形に由来するというのは正しいが、そういう形をしているから「背中を向ける」とか「負ける」「逃げる」という意味を持っているわけではない。「背中を向ける」等の意味を持つ{*pˤək (ホク)}という単語を文字で表現するため

          「鯨」字は「京(大きい)+魚」だとか右文説とか「会意兼形声」とかの憶説はなぜ文字学界に受け入れられないのか

          ※この記事は https://note.com/nkay/n/n52fb6d7c6fd3 のつづきです。 ※2021/06/18:誤字を修正しました。 ※2021/07/08:誤字を修正し、ついでに一部の文章をわずかに変更しました。 概要をいうと、『ゆる言語学ラジオ』というYouTubeチャンネルにおいて、漢字に関して学術的に誤った理解に基づいた動画が作成され、(それが言語学的に正しいものとして)拡散されている。そこで、それを訂正する記事を書いたというわけである。 前文

          「鯨」字は「京(大きい)+魚」だとか右文説とか「会意兼形声」とかの憶説はなぜ文字学界に受け入れられないのか

          ゆる言語学ラジオは非学術的な営みなのか??そんなことより、形声字について解説します!

          ※この記事は https://note.com/nkay/n/nf9a24b8795bc のつづきです。 概要をいうと、『ゆる言語学ラジオ』というYouTubeチャンネルにおいて、漢字に関して学術的に誤った理解に基づいた動画が作成され、(それが言語学的に正しいものとして)拡散されている。そこで、それを訂正する記事を書いたというわけである。 1. 前文この一連の記事のメインターゲットが誰なのか再考すると、やはり「件の動画を視聴していて、漢字に興味があって、学術的正確性を気にす

          ゆる言語学ラジオは非学術的な営みなのか??そんなことより、形声字について解説します!