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新規事業立ち上げ&DX構築 ― 某クリニックの郵送型PCR検査事業マーケティング その2 詰めていく篇

前回のその1に続く、海外向けWi-Fiルーターレンタル会社のマーケティング部長だった時に経験した新規事業立ち上げの話。
その1は、こちら。

分解を続けたら、次は

全体をどんどんと微分していって、プロセスの最初の部分「希望者が申し込み、唾液を自宅で採取してクリニックに送付する」と言う、句読点2つ分だったプロセスを10個以上に微分して、その中の一項目、「希望者に検査キットを発送する」をさらに具体的レベルまで分解したら、

1・検査用の資材を準備する。

2・発送用の梱包材を作成する。

3・説明用の資料を作成する。

4・返送用の資材を作成する。

5・ひとつにまとめて検査キットを完成させる。

6・キットを保管しておく。

7・受注内容に合わせた先へ発送手続きをする。

8・運送会社に引き渡す。

9・発送完了連絡をする。


になって、後は具体的に、誰が、どこで、いつ、どうやって、いくらで、などの条件を考えていく事ができるようになった。ここまでが前回の話。

と言うのは簡単だが、個別の・ごとに必要な物をリストアップし、作業の工程を組み立て、人や場所などの必要なリソースを推算し、内外にリソースの確保をし、例外やトラブルがあった際の対応を決め、これらを含めた費用を試算する。それも現実的に予算と期間に収まるようにだ。
痺れる。

一つ目の項目だけは、同時に担当してくれていたCOO的位置付けでパワフルな役員が病院、検査所の扱いとあわせて準備してくれたので、係わっていないが、そこで用意したものは、二番目~四番目の項目に大きく影響する。

ともかく、このレベルまで微分したおかげで、二番目~四番目は自分の直下の制作チームが担当できる、五番目以降はWi-Fiの発送と受取を行っていたロジスティクスチームで対応できそうな事が誰にでも理解できる。
何をどうやって実施する必要があるのか、各自の関わる項目で具体的に説明できるし、理解も促しやすい。またこのプロジェクトで必要な物と既存のリソースの違いも比較しやすく、議論も容易だ。別な項目に気を取られる事なく、議論している項目にだけ絞って話ができる。

会議や調整話をしていると、時々いるのが、取り上げている話題やポイントから、いつの間にか周辺や外縁の話と混在してしまって、ポイントを失ってしまう人。想像力や想定力、リスク回避意識や、話題や意欲は豊富かも知れないが、時間の無い効率的なディスカッションや合意の形成には、正直邪魔だ。が、微分した項目を共有しながら話して行くと、いつでもポイントに戻れて何を話しているか、誰でも嫌みなく理解できるのが、本当に良いと思う。
ついでに言うと、こういう会議では、

ホワイトボードが絶対的なツールだ 正義だ

微分して項目化したリストを貼って説明しても良いし、項目を盤書しながら整理したプロセスも共有し、足りない部分や間違いの指摘を書き足しながら修正した項目を作成して、その場で連携できる。

PCをプロジェクトやモニタに繋いで画面共有し、打ち込みながら完成させる方法もあるが、まったく臨場感が違うし、共有感が別次元だ。
そう、感じてるのは私だけかも知れないが、マスターが私のプロジェクトなら、私にとって理想的なら、それが正義だ。、よね。

知り合いなら知っている事だが、私の字は汚い。どんなに丁寧に書いても、癖が強い。
ましてや、口頭の説明と合わせたスピードで書きなぐる文字は、かなりの難物だ。読め、と強要するのは、ある種のパワハラかもしれない。

でも、そんな字を、何て書いてあるのか質問されながら、改めて補足して説明していく過程も、理解を連携するサポートになってたりする。人的コミュニケーションを、人の手の書く文字が深める。そう思う。

このPCR検査立ち上げの時は、レンタルWi-Fiビジネスで構築されリファインされてきていたロジスティクス部門がこのプロセスには大きく活用ができた。
逆にこの部門がなければ、あそこまで早く、収益性の高い仕組みを作る事はできなかった。
これは物理的な仕組みだけでなく、バックで処理するシステムにも言えた。

システム構築と言う魔境

検査の要の一つに個人情報の取り扱いがあった。
申込み、セット送付、検体受取り、開梱、検査所へ移動、検査、結果確認、結果通知の一連のオペレーションで、ユーザーを取り違える事なく処理する必要がある。が、プロセスを見ると、どうしても人が手作業で行わなければならない、しかも複数の人が同時に同じ場所で作業を行わないと大量には処理できない場面がいくつかあった。
さらに申込み者が、入力時と返送時に記名などを間違えたり、無記名で送付される事と大いにあり得る。何より手元に届くのは、感染の疑いのある検体だ。(ちなみに2020年頃はまた検査数に対しての感染率はかなり低く、一桁前半くらいだった)
ガイドラインを守りながら、大量の物を一つも取り違える事なく、一環のプロセスを処理するシステムの構築を約1ヶ月で終わらせなければ、開始ができない。

ここでも、既存のスタッフと仕組みに救われた。社内でWi-Fiの基幹システムを開発、管理しているチームがあり、その部門の責任者二人の現場力が、爆発した。
具体レベルまで微分した資料が大いに役立ったのも間違いない。

このプロジェクトに求められる基幹システム、検査所の機材を管理するシステム、入出金等のシステムを、利用できるレンタル業の既存システムがあるとは言え、新たにこの期間で構築するのは、正気の沙汰ではない。

システム責任者のM永、T橋の二人に、微分リストで、プロセスと必要な項目、必須な作業と想定されるイレギュラーを説明し、希望する要件を伝えて言った。
システム素人の私では要件定義の詳細な資料は作成できないが、何がどこで何故必要なのか、システムに求める事は委細なく共有できた。
プロと素人の会話も、具体レベルで全てを分解してある資料があれば、文法や習慣が異なっていても、何を問題にしているか言語化されている物を前にして話せるので、抜けや間違い勘違いも含めて、誤解無く会話をし、方向の合意が短時間で行えた。
そこから先、システム部門の作業は二人に任せていたが、端から見る限り無限徹夜や休日出勤などのデスマーチ状態にはならず、期限内でテスト版を完成させてくれた。
その後、私がこだわったUIの採用やUXの改善で、ギリギリまで(と言うかスタート後も)作業は続いていたし、数日は休出をお願いしてしまった。

ともあれ、現場力と高い責任者と、各パートをスタッフと詰めた具体レベルの微分リストがあれば、最短で無駄の無い作業の実行が可能だ。
マーケティング担当としては、システムチーム向けに作成しているわけではないが、関係する全ての部門との作業で活躍する微分リストは、有効な手法だなと、改めて感じた開発業務だった。

と言うところまでで、その2は終了。
誰かのプロジェクトを直接サポートする内容ではないが、何かしら手助けのきっかけになってくれたら嬉しい。
ので、残りもう一回続けます。

最終回は、事業の背骨が出来上がってからの、マーケティングコミュニケーションの部分についての予定です。

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