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戦慄の少女漫画「乙女怪獣キャラメリゼ」がおれのハートを震撼させる

 2018年3月8日午前11時、ニコニコ静画に大怪獣が襲来し、世間を揺るがした。即ち、月刊コミックアライブ話題の新連載「乙女怪獣キャラメリゼ」(作:蒼木スピカ先生)が最新話1ヶ月web無料配信を開始したのだ。この大怪獣はその勢いを何ら減じることなく、6月の1巻、2019年1月の2巻、そして同月の第1話Twitter公開を経ていよいよ日本全土を混乱に陥れることとなった。遂には「次にくるマンガ大賞2019」にもノミネートされ、単行本は2022年3月で6巻を数え、今後も更なる脅威が我々を襲うだろう。本稿はこの恐るべき「乙女怪獣キャラメリゼ」の持つ、見る者の心臓を色々な意味で激しく拍動せしめる底知れぬパワーをお伝えするものである。

※本記事のタイトルは、コラムニストの逆噴射聡一郎先生をリスペクトしています。また、ヘッダーには単行本第1巻表紙画像を使用しています。

乙女怪獣キャラメリゼとは

 まずはこの乙女怪獣キャラメリゼがどのような漫画なのかご説明せねばなるまい。

 乙女という文言から明らかなように、本作は純然たる少女漫画である。尚ニコニコ静画におけるカテゴリは何故か少年漫画となっているが、そんなものは怪獣の足下の石ころのごとく些細なことである。
 ストーリー展開としては、人目を避けて生きる根暗女子高生が人気者のイケメンに急接近されて不覚にもドキドキしてしまうといったものとなっている。私は少女漫画に詳しくないが、ややステレオタイプ的な少女漫画展開と言えるのではなかろうか。(少女漫画要素を敢えて奇をてらっていないものとしているようにも思われる。)

 そこに、怪獣要素が放り込まれるのである。

 主人公は身体の一部が発作的に醜く変質する謎の症状に悩まされ、それ故に人目を避ける根暗メタラースイーツ女子であり、光り輝かんばかりのイケメンに接近されるが、自らの感情の昂りによって症状が出るのを恐れ、また自分を卑下するあまりそのイケメンのことを疑い、距離を取ろうとする。しかしなんだかんだでそのイケメンから度重なる接触を受け、ドキドキさせられることとなってしまう。そして抑えていた感情が臨界点に達したその時、突如として隅田川に大怪獣が出現する

 重大なネタバレを最大限避けつつ粗筋を説明するとざっとこんな感じだろうか。第1話「ひとりぼっちの女子高生」が様々な合法的手段で試し読みできるため、是非とも目の当たりにしていただきたい。

 本作の魅力はやはり、奇をてらわず緻密で惹き込まれる少女漫画要素と、圧倒的迫力の怪獣要素が奇跡的両立を果たしている点にあると言えよう。それが可能となったのは魅力あるキャラクター、確かなストーリーテリング、そして圧倒的画力、以上3点によるところが大きいと私は考えている。要するに全部だ。

キャラクター紹介

 本作のキャラクターはヴィジュアルや設定のみならず、内面の描写や人物像の掘り下げが入念に行われており、一人ひとりが際立った魅力を有している。ここではそんな登場キャラクターについて、2巻登場分までを紹介する。尚、3巻以降も魅力的な新キャラが登場するので是非目の当たりにしていただきたい。

赤石 黒絵(あかいし くろえ)

誰も  私を  見るな

 本作の主人公。身体の一部が突然醜く変形する謎の奇病に悩まされており、症状が出た自分の姿を受け容れてもらえなかった経験から人目を避けるようになる。自身の症状のことに限らず「人を見た目で判断する」価値観の蔓延る世の中を呪い、メタル音楽とパンケーキ画像に逃避する。趣味で絵を描くが、灰色一色しか使わないのは自分を取り巻く世界に彩りがないせいか……。
 鬱屈とした人生を送る彼女であるが、イケメン南新汰との接触を機に多彩な表情を見せるようになる。乙女な表情はもちろんコミカルな表情の幅も広い。有り体に言えば顔芸要因である。蒼木先生の描く顔芸は驚くほど引き出しが多く、本作の見どころの一つと言っても過言ではない。

南 新汰(みなみ あらた)

教室の隅の鉢植えも 花咲いたじゃん 赤石さんが毎日水あげてるから
かっこいいっす

 モデルの話も来ていると噂の、イ〇スタ界の超新星。イケメンで人当たりもよい人気者。トクホのコーラを愛飲する。黒絵との距離感が近く、彼女を大いに混乱させる。
 とまあここまで見ればただの天然イケメン舞台装置であるが、これだけで終わらない所がこのキャラクターの、ひいてはこの作品の魅力である。南は南で「人を見た目で判断し、また周囲の評価を気にする」世の中の風潮に対して思うところがあり、それ故に、周囲になびかず自分を貫く黒絵(少なくとも彼にはそう見えている)に対して憧れを抱く。南が黒絵に惹かれたという事実それ自体が黒絵と南、両者の内面やバックグラウンドの掘り下げになっており、ふたりの魅力を引き上げているのだ。
 余談だが、南がトクホのコーラを愛飲することに理由があったと私が気付いたのは本稿執筆中のことであった。そういえばトクホのコーラってそういうことか、と、1話を読めばご理解いただけよう。

赤石黒絵と南新汰の接触。物語が動きはじめた。

友里 真夏(ともさと まなつ)

良かった… 私…もう胸が張り裂けそうでした…

 第2話「乙女怪獣東京に現る」(※)終盤に登場。1度目の大怪獣出現から一夜明けた日、遅れて登校してきた南に真夏が駆け寄り、声をかけるところを黒絵は目撃する。何やら馴れ馴れしく話す様子、美少女であること、胸が大きいことなどにより黒絵の心は大きく揺らぐこととなる。
 彼女がどういう人物であるかは第3話「怪獣妃殿下」で過不足なく描かれる。彼女は読者人気の高いキャラクターでもあり、本作を読んでみようという方は少なくともこの第3話まで読まれることを強くお勧めする。(後述するが3話も試し読み可能。)

(※)サブタイトルは単行本準拠

ハルゴン(はるごん)

ギ ャ゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛

 隅田川に突如として現れた大怪獣。翌日のワイドショーでタレントのホットサンドマンが、晴海に現れたという理由でハルゴンと呼称。これが定着した。何の前触れもなく現れ、どこかをじっと見つめ、逃げるように消える、謎に包まれた存在。100メートル級の巨躯を持ち、自衛隊ヘリの銃撃も全く意に介さない。幸いこれまでの出現で死者は出ていないが、人類の未来や如何に…

単行本2巻表紙は真夏さんとハルゴンだぞ。

ジャンボキング(じゃんぼきんぐ)

(ドムッ)

 赤石家のペットのかしこい犬だぞ。

赤石 凛子(あかいし りんこ)

黒絵の味方はママだけだからね

 黒絵の母親。歌手の浜崎まゆみの大ファンで、若々しくエネルギッシュでタフなシングルマザー。娘を案じ、やや過保護に接する。コメディ要員的ムーヴを見せることが多いが、時折難しい顔で何やら専門的なことを呟き始める。黒絵の特異体質について何か知っているのかもしれない。

黒絵顔芸からの、黒絵母とジャンボキング。

クラスのギャル(くらすのぎゃる)

きんもー  メンヘラたんまじメンヘラ(笑)

 凪子(なぎこ)という女子生徒を中心としたグループ。南に群がり、もてはやし、カメラを向ける。根暗な黒絵を「メンヘラたん」と呼び、人目を憚らず罵る。黒絵曰く「毎日毎日サカリやがってビッチ共…」
 黒絵に対する当たりの強さが少女漫画らしく(?)常軌を逸しており、読者のヘイトを集める立ち位置にある一方、リアクション担当としての立ち回りは特筆すべきものがあり、コミカルなシーンを盛り上げる役割を担う。

響野 光太郎(ひびの こうたろう)

症状でちまうぞ まだ治ってないんだろ? …アレ

 第8話「セクシー博士SOS」で本格的に登場する、黒絵母の知人。メタラー。色男で、黒絵母曰く軽薄。黒絵が幼少の頃から交流があるようで、症状のこともある程度知っている。親心めいて黒絵のことを気にかける。ハルゴン出現後に日本に帰ってきたというが、詳しい行動目的は謎に包まれている。

 以上のようなキャラクターたちがこの物語を形作っている。尚、お察しの通りツッコミ担当は不在である(強いて言うなら黒絵だが彼女は限りなくボケ側の人間だ)。よってしばしばカオスな展開が生まれるが、黒絵と南の恋物語という軸が絶対にぶれないため、ストーリーが雑になったり明後日の方向に向いたりすることは決してない。続いてはそんなストーリーテリングの妙について紹介させていただく。

続きが気になる、ぶれないストーリー

 本作が単なるイロモノでないことは既にある程度お判りいただいているかと思うが、それを決定的に裏付けるのが各話非常に練り込まれたストーリーである。本作は1話1話の中に、笑いどころを一面に敷き詰め、しかしその中でキャラクターの内面を掘り下げ、話の展開をぐいと進め、最後に気になるヒキを持ってくる。月刊連載故1話ごとのページ数が比較的多い訳だが、そのボリューム感をフル活用しながらありったけのモノを詰め込む構成力がこの作品の土台となっていると言えよう。

 そして何より、本作はあくまで黒絵と南の恋を描く物語であり、それがオミットされたことは一度たりともない。ボケが飛び交い、大怪獣が暴れても、そこが絶対にぶれないのでストーリーに一本芯が通った作品となっている。だから「あくまでふたりの恋愛を見てキュンキュンしたいぜ」という方を絶対に裏切らないし、ネタがぎっしり詰まっているので「とにかく腹一杯笑いたいぜ」という方も満足できるはずだ。
 さらに、「大怪獣にロマンを感じますわ~っ!!踏み潰されたい……っ」という方に対しては、この作品は圧倒的画力でもって回答するのである。

圧倒的網羅的作画

 1話のリンクを貼り、表紙画像の一部を貼った本稿をここまでスクロールした貴方ならば、既に蒼木先生の画力の凄まじさを体感されたことだろう。本作は女子高生が登場し、イケメンが登場し、怪獣が、犬が登場する。それら多種多様な要素すべてを、圧倒的筆致でもって、美麗に、もしくは壮大に描き出しているのだ。
 ちなみに蒼木先生はインタビューで「怪獣を描いたのは生まれて初めてだったので(笑)」と述べている。このインタビューは他にもここでしか聞けないような情報が満載で満足度が高い。

 キャラクターとストーリーの魅力は既に述べた通りであるが、一番最初に読者の心をつかむのは恐らくこの画力であろう。何を隠そう私は、特撮知識ゼロ、少女漫画に関しても某り〇んのギャグ4コマくらいしか読んだことのない、この作品に縁遠い趣味を持つ男であったが、「なんかサムネの絵がすごいかわいい」と思ってニコニコ静画の1話をクリックし、御覧の通りまんまとハマってしまったと言う訳だ。

「乙女怪獣キャラメリゼ」を読む

 ここまでこの作品の紹介を読んだ貴方は、もし本編未読ならば「読んでみたい」という気持ちがきっとおありだろう。そんな貴方に私がお勧めするのは以下のルートだ。

①試し読みする

②単行本で読む

③連載を追う

①取り敢えず3話まで読む

 まずはとにかく1話を読むことだ。続く第2話も公式無料配信が行われている。ニコニコ静画のほかにもComic Walkerやpixivコミックでも読むことが可能だ。特にpixivコミックは第3話を無料で読むことができるという極めて重要な利点がある。既に申し上げたように第3話は真夏さんの人となりがわかる必見エピソードなのだ。

②単行本で読む

 第3話まで読んでこの作品の魅力を知り、続きを読みたいと思った貴方。残念ながら現在までのエピソードを全てWebで読む現実的な手段は存在しない。その後を読むにはお金を払い、単行本を購入するほかない。しかし、乙女怪獣キャラメリゼの単行本は全話読んでいる人にとってすら非常に価値のあるものであるため、買って損はしないことを保証する。特に第1巻は「おまけ」と称して第4話「開かない扉」のその後が描かれているほか、作者あとがきは完全に乙女怪獣キャラメリゼ誕生秘話であり、是非とも読んでおきたいコンテンツなのだ。

③連載で最新話を読む

 最新話はニコニコもしくはWalkerで読むことができる。最速で読むために月刊コミックアライブを入手するのも手だろう。これらの連載版は毎話変わる凝ったデザインのタイトルロゴや編集によるアオリがついており、これがまた面白いので単行本を買うつもりでも要チェックだ。とんだアトラクションだぜ…

③-2 コメント付きで読む

 私自身は第1話からずっとニコニコ静画で連載を追っている。ニコニコと言えば読者によるコメント機能だ。私は怪獣をはじめとした特撮作品の知識をほぼ持たないため、特撮ネタ(各話サブタイトルでピンときた方もいらっしゃるのでは…?)を拾って解説してくれるコメントにお世話になっているし、それ以外のコメントも全体として好意的で居心地が良い。コメント付きで楽しむのは個人的にかなりお勧めだ。

終:乙女怪獣の猛威を目撃せよ

 ここまで紹介してきた乙女怪獣キャラメリゼであるが、Twitter上での第1話公開以降いよいよ勢いが増し、一時期は単行本品薄の状態が続いた。2019年1月に重版が決定したことで色々状況が上向き、状況はほぼ改善されたものの、今後も再度品薄となる可能性には十分に備えておきたいところである。

 大怪獣の雄叫びが日本を完全に包む日も近い。貴方も無料配信や連載を読み、単行本を手に入れ、この怪獣の姿をその目に焼き付ける時が来たのだ……。


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